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五皿目 元・勇者VS現・勇者
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しおりを挟む「……炎、消えろ」
ややあってリューオがボソ、とそう呟くと、包囲していた炎が消えた。
炎から伝わってきていた熱気もなくなり、空気が清々しい。
俺は静かに剣をしまい、リューオも剣をしまう。
そっと立ち上がると、無言のまま悔しそうに舌打ちされた。
勝負は決したということだ。
よかった、勝てたぞ。
内心ほくほくとするが、リューオは負けず嫌いなので、不満満載の顔で俺を睨んでいる。
「ケッ、目ェ離した俺の負けだコンチクショウッ。汎用性高ぇ魔法陣、隠密で使われたらクソだなクソ。ゼッテェ次は三枚におろす」
「ん……俺は奇襲以外では勝てないぞ。ヨーイドンの試合だと、多分大抵負ける。それに本来俺は、急所を一撃で仕留めるスタイルなんだ」
「負けた俺に嫌味かオラ」
「いや、次は負ける」
これは本当。
謙遜ではない。
敵意丸出しでオラオラしてくるリューオに再戦はないと言って、俺は惚れ直してもらえるかという期待を胸に、アゼルのほうを見た。
──んだが。
遠目でもわかる、アゼルの異常。
四つん這いで地面を殴っているのはなぜだ? 審判なのに、ジャッジの旗を手放している。
「俺のシャルがカッコイイ来たぞってカッコイイ最後ニヤってしたカッコイイかわいいしカッコイイ好きだやべぇおい聞いてくれ世界カッコイイんだもう一度言うぞカッコイイんだ好きなんだはぁぁぁ……っ!」
アゼルはなにやらブツブツと語りながら、ドウッドウッと地面を殴りつけていた。
野外なのに、まさか発作か。
相変わらず条件がわからない。
「あンの野郎、なにバグッてやがンだ」
遠目で見ていても埒が明かないので、悪態を吐いたリューオが、渋い顔で嫌々と近寄っていく。
俺もトコトコとついていくが、小声なのでアゼルがなにを言っているのかわからない。
(……もしかして、アゼル……せっかく、カッコイイと思われたくて勝ったのに、肝心なところは見てなかったのか?)
ホクホクとしていたが、残念な結果と察し、少し肩を落とした。
これはしょげてしまう。
俺だって男なんだ。好きな人によく思われたいんだぞ。
「魔王テメェ審判しろやッ!」
「うるせぇ今忙しいんだよッ!」
ズカズカと近づいて行ったリューオが容赦なく蹴りを放つと、アゼルはパッ! と起き上がって難なく避け、ガウッと吠える。
軽々とした身のこなしだ。
それが余計にリューオの怒りを焚き付ける。
錯覚だがグルルル、と唸る二人の背後に、虎と狼が見えた。
猫科と犬科か。
わかる気がする。
リューオは猪突猛進で自分の考えが最優先の俺様何様リューオ様で、お猫様に通じるな。猛獣なので虎だ。
アゼルは一見優雅な狼だが、どれだけ仏頂面で澄ましていても見えない尻尾が見えるくらい、一途でひたむきである。
ピッタリだ。
俺の脳内補正な錯覚は、意外と的を得ているらしい。
「……いいんだ。勝ったとはいえ、奇襲だからな」
褒められるだろうかと期待していたのに褒められず、しょんぼりと肩を落とす。
そんな俺の背後には、きっとハムスターがいるのだろう。とっとこな俺だ。
ガオガオグルルルと睨み合って文句を言い合う二人に近づきながら、フリフリと手を振る。
「アゼル」
「なんだよ」
そのまま呼びかけると、アゼルはスッ、と立ち上がり、何事もなかったかのように素早く俺の元へやってきた。
お前の身のこなしがスマートなのは知っているが、アゼル。
リューオが後ろで怒りに震えているぞ。
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