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五皿目 元・勇者VS現・勇者

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(隠密)

 もちろん、それを見逃す俺ではない。

 内心でスイッチを呟きスキルを行使すると、俺の姿はリューオには捉えられなくなった。

 俺の隠密スキルは、認識される前に使えば相手の意識の外へ存在できるのだ。

 まぁ……フィールド外で審判をするアゼルには、認識できていると思うが。

 いやだってな、開始直後から俺しか見ていないんだぞ?

 じーっと突き刺さる視線を恨みがましく思う。き、緊張してしまうじゃないか。

 あれで本人は怪我がないよう、見守っているつもりなのだ。

 初めて娘の参観日に来た父親レベルの熱い視線である。

 体勢を立て直し剣を構えたリューオは、すぐに俺がいないことに気が付き、警戒した。

 むむ、対応が早いな。
 もう少し狼狽えてくれれば影から一撃入れられたのに。

「クックック、気配察知スキル持ってねぇっつのッ! でもな、俺は負けねェ。炎、螺旋、包囲ッ!」

 ゴオォォォ、と細い炎がリューオの周囲に舞い上がり、リューオ自身を螺旋階段のような筒状に囲んで包囲する。

 こういう規模が大きく形状が単調じゃない魔法は、範囲も練度も必要な難易度の高い魔法だ。

 残念ながら属性魔法スキルを持たない俺には、水魔法で消し去るようなことはできない。

(自分を包むとは、考えたな。ちょっと困る)

 隠れているとはいえ触られるとバレるので、俺はすぐに近くの木の上に潜み、どうしたもんかと様子を見る。

 あれじゃリューオも攻撃できないと思うが、不意打ち狙いの俺には効果抜群だ。

 それからアゼル。
 俺のいる木をガン見するのはやめてほしい。バレる。

「まぁ、策がないわけじゃないが」

 攻撃を仕掛けられずにイライラするリューオを眺めながら、ぽそりと呟く。

 このままリューオが我慢の限界で暴れだすまで待ってもいいが、それじゃあどこかの建物を壊しかねないからな。

 うっかりアゼルを燃やされても困る。
 俺もできれば穏便に勝ちたい。

 それに気付かれる前に仕留める暗殺者だったと言っても、バレることはあったんだ。

 あぁやって包囲してきた人もいたし、防御結界に立てこもった人もいた。

 過去を思い返し、策を練る。

 ──俺は……リューオやアゼルと比べると、魔力も少ないし火力もない。

 もし仮にここにいる三人が、一人で敵に挑むとするなら。

 大群相手の殲滅戦なら、アゼルが適任だ。

 圧倒的かつ、絶対な広範囲魔法の連発。敵が辿り着く前に全滅するだろう。

 ドラゴンやキメラなんかのとんでもモンスターと戦うなら、リューオがいい。

 タフでパワフルで好戦的。短気だが疲れ知らずなので、決定力も十分だ。

 そのリューオは炎の包囲の中で、野生のトラの様な様子で剣を構えている。

 俺は影ができないように太陽の向きに注意しながら、静かに動き始めた。

 そんなに集中しても、スキル行使中の気配は消えるんだ。悪いな。



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