上 下
301 / 901
五皿目 元・勇者VS現・勇者

09

しおりを挟む


 そんな変態スキルの消滅を試みるアゼルに、ふとリューオは腕を組んで、首を傾げた。

「魔王はよォ~、このステータス持ってて、なんで幽霊にしてやられてんだ?」
「ふぐ……っ」

 途端──ピシャァァンッ、と雷でも落ちたような音がアゼルから聞こえたような錯覚がする。

 いけない。
 それはいけないぞリューオ。

「その話はやめてさしあげろ……。そこはまだデリケートなんだ……! あぁっ、アゼルが塩をかけられたナメクジのように、フニャフニャとテーブルに突っ伏してしまったぞ……っ!」
「マジかよ。普段強気なくせにお前関連の失態はクソメンタル弱いな、コイツ……」

 リューオに責められて、アゼルはぐったりとテーブルに突っ伏した。

 俺はアゼルの肩をポンポンと慰め、慌ててよしよしとなでて復活を試みる。

 むむ、こう見えてナイーブなんだぞ。

 アゼルはこれまで負けたことがなかったし、自分の攻撃が一切通じないなんて困った状況になったことが、まるでなかったんだ。

 密かにかなり自信喪失中である。
 人質と言う存在が大きかったのと、霊体だから仕方ないんだがな。

 けれど魔王なのにこっそりと神官の術の本を読んでいたので、負けず嫌いを発動しているんだろう。

 神官の本──所謂聖書を熟読する魔王なんて、魔界歴でも初めてなんじゃないか。

 神殿すらないので結婚式もあげない魔界の魔王が、まさかの愛読書チョイス。

 魔族封印の術なんかをどんな目線で見ているのだろうか。確かフルネームと複雑な魔法陣が必要だった気がする。

「クックック……今まで魔物を狩ったり人間を焼いたり天族を仕留めたり精霊族を排除したりして、驕っていた俺が馬鹿だったぜ……。時代は霊体狩り、神官最強……。すげぇ勉強したのに、俺闇魔力しか持ってねぇから聖法使えなかったしな……。ポンコツ魔王とはよく言ったもんだ……ククク……」

 だめだ。
 だめだめだ。

 ポテンシャルの持ち腐れを嘆きすぎて、不遜で尊大なブレないアゼルが、ポンコツ魔王を公認し始めている。末期じゃないか。

 俺はオロオロと狼狽えながらアゼルを慰め続けるが、自尊心がへし折れているようだ。

「リューオ、このままじゃアゼルがナメクジのようにトロケてしまうぞ……! ど、どうすればいいんだっ?」
「あーもう溶けてもイイんじゃね? 抱きつき魔だし変態で収集癖……ストーカーだし。束縛スゲェ上にシャルとそれ以外で対応が違うから、俺ァ何度脳内で刺したか……」
「よくわからないが、溶けたらダメだっ、寂しい。アゼル、帰ってこい……!」

 全く心配した様子のないリューオに対して、俺だけがかなり焦っている。

 ゆさゆさよしよしと譲ってなでて慰めても、しゅーん、と致命傷を受けたアゼルはしょげるばかりだ。

 霊体最強説浮上だったが、攻撃力は皆無だったのでそう嘆くこともないんだぞ。

 恐らく全状態異常耐性のあるアゼルなら、呪いすら効かないだろうし。

 俺がいなければ圧勝できたと思うんだが、聞き入れないし……ええと、慰めるにはどうしたらイイんだ。

 これ程なでても復活しないなんて珍しい。
 うーんと悩み込んだ俺は、一ついい方法を思いついた。

「よい、しょっと」
「!?」
「ほら……アゼルは強くてかっこいい魔王様だろう? あんまり落ち込むな。好きな人を卑下されると、俺が悲しむ」
「ぅぐ……!」

 膝枕、今度は落ちないように気を付けて。

 元気付けようとどうにか引っ張って膝の上に寝かせると、アゼルはネガティブ発言を止めて、固まってしまった。よし、成功だ。

 まったく、次にまた幽霊が出たとしても俺も一緒に戦うのに、なにを気にすることがあるんだ。

 二人で守り合えば無敵だと思う。
 俺が頑張って、お前を守ってみせるぞ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

発禁状態異常と親友と

ミツミチ
BL
どエロい状態異常をかけられた身体を親友におねだりして慰めてもらう話

処理中です...