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五皿目 元・勇者VS現・勇者
09
しおりを挟むそんな変態スキルの消滅を試みるアゼルに、ふとリューオは腕を組んで、首を傾げた。
「魔王はよォ~、このステータス持ってて、なんで幽霊にしてやられてんだ?」
「ふぐ……っ」
途端──ピシャァァンッ、と雷でも落ちたような音がアゼルから聞こえたような錯覚がする。
いけない。
それはいけないぞリューオ。
「その話はやめてさしあげろ……。そこはまだデリケートなんだ……! あぁっ、アゼルが塩をかけられたナメクジのように、フニャフニャとテーブルに突っ伏してしまったぞ……っ!」
「マジかよ。普段強気なくせにお前関連の失態はクソメンタル弱いな、コイツ……」
リューオに責められて、アゼルはぐったりとテーブルに突っ伏した。
俺はアゼルの肩をポンポンと慰め、慌ててよしよしとなでて復活を試みる。
むむ、こう見えてナイーブなんだぞ。
アゼルはこれまで負けたことがなかったし、自分の攻撃が一切通じないなんて困った状況になったことが、まるでなかったんだ。
密かにかなり自信喪失中である。
人質と言う存在が大きかったのと、霊体だから仕方ないんだがな。
けれど魔王なのにこっそりと神官の術の本を読んでいたので、負けず嫌いを発動しているんだろう。
神官の本──所謂聖書を熟読する魔王なんて、魔界歴でも初めてなんじゃないか。
神殿すらないので結婚式もあげない魔界の魔王が、まさかの愛読書チョイス。
魔族封印の術なんかをどんな目線で見ているのだろうか。確かフルネームと複雑な魔法陣が必要だった気がする。
「クックック……今まで魔物を狩ったり人間を焼いたり天族を仕留めたり精霊族を排除したりして、驕っていた俺が馬鹿だったぜ……。時代は霊体狩り、神官最強……。すげぇ勉強したのに、俺闇魔力しか持ってねぇから聖法使えなかったしな……。ポンコツ魔王とはよく言ったもんだ……ククク……」
だめだ。
だめだめだ。
ポテンシャルの持ち腐れを嘆きすぎて、不遜で尊大なブレないアゼルが、ポンコツ魔王を公認し始めている。末期じゃないか。
俺はオロオロと狼狽えながらアゼルを慰め続けるが、自尊心がへし折れているようだ。
「リューオ、このままじゃアゼルがナメクジのようにトロケてしまうぞ……! ど、どうすればいいんだっ?」
「あーもう溶けてもイイんじゃね? 抱きつき魔だし変態で収集癖……ストーカーだし。束縛スゲェ上にシャルとそれ以外で対応が違うから、俺ァ何度脳内で刺したか……」
「よくわからないが、溶けたらダメだっ、寂しい。アゼル、帰ってこい……!」
全く心配した様子のないリューオに対して、俺だけがかなり焦っている。
ゆさゆさよしよしと譲ってなでて慰めても、しゅーん、と致命傷を受けたアゼルはしょげるばかりだ。
霊体最強説浮上だったが、攻撃力は皆無だったのでそう嘆くこともないんだぞ。
恐らく全状態異常耐性のあるアゼルなら、呪いすら効かないだろうし。
俺がいなければ圧勝できたと思うんだが、聞き入れないし……ええと、慰めるにはどうしたらイイんだ。
これ程なでても復活しないなんて珍しい。
うーんと悩み込んだ俺は、一ついい方法を思いついた。
「よい、しょっと」
「!?」
「ほら……アゼルは強くてかっこいい魔王様だろう? あんまり落ち込むな。好きな人を卑下されると、俺が悲しむ」
「ぅぐ……!」
膝枕、今度は落ちないように気を付けて。
元気付けようとどうにか引っ張って膝の上に寝かせると、アゼルはネガティブ発言を止めて、固まってしまった。よし、成功だ。
まったく、次にまた幽霊が出たとしても俺も一緒に戦うのに、なにを気にすることがあるんだ。
二人で守り合えば無敵だと思う。
俺が頑張って、お前を守ってみせるぞ。
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