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五皿目 元・勇者VS現・勇者

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 ♢


 チリン、と鈴のような涼し気な音が聞こえ、アゼルの指が首元から離れる。

「ん、これで魔力は全開放だぜ」
「ありがとう」

 しばらくティータイムにした後。
 しがみついて離さなかったアゼルが、ようやく当初の目的を達成してくれたのである。

 前回のVSリシャールを踏まえて、デンジャラスな魔界での危険対策に、俺は魔力を全開放してもらう約束だったわけだ。

 見えるように帯剣しないことを条件に、剣も返してもらった。

 人間が武装して変に魔族を刺激しないようにするためなので、召喚魔法域にしまっておく。

「実感が湧かないが、ちゃんと魔力が戻ったんだな」

 手を握りしめ、じっと見つめる。
 戒めが全て取り払われた今、心持ち晴れやかだった。

 フルパワーの自分というのは、本当に久しぶりだ。チート能力はないけれど、気分はいい。

 とはいえ剣は時たま自己鍛錬していたので問題ないが、以前のように魔法陣や魔法を使えるかというと、ちょっと自信がないぞ。

 また訓練しないと、と思う。

 今は戦闘力が命綱のような生活をしていないので、選択肢として訓練を選ぶのは嬉しい。

 魔封じのチョーカーは全開放しても、そのままつけておくことにした。

 首元にあることに慣れたので、そのままのほうがしっくりくるのだ。

「へェ」

 アゼルと俺を見ながら紅茶を飲んでいたリューオが、不意に前のめりになった。

 興味津々な様子で、俺の魔封じのチョーカーを見つめてくる。

「これで完全体シャルなワケ?」
「そうだな。今までは大体……んんと、一割未満の魔力しかなかった。生活用品を扱えるぐらいだな」
「どんだけ封じるんだよッ、マジその魔導具エゲツねぇな……」
「まぁ、素材が希少なんだよ。魔導研究所作で、かなり高価だぜ。それに登録した魔力の持ち主……これだと、俺しか操作できねぇからな」

 アゼルの説明を受けて、へぇ、と感心の声が上がる。

 一応、元は捕虜の拘束具なんだがな。
 高価な物を使っていいのだろうか。

 ひょいと俺の作ったクッキーを摘んで食べるアゼルを横目に紅茶を飲んでいると、リューオが「そういえば」と声を上げた。

「俺、ステータス見れるぜッ。見てやろうか? 当人が許可してくんねェと無理だけどよ」
「あぁ、あの勇者特権か」

 出会った頃を思い出した俺は、ふむふむと頷く。

 勇者であるリューオは本来神殿に行かなければ見れない自分のステータスを、好きな時に見ることができるのだ。

 見られるのは自分だけだと思っていたのだが、人のステータスも見られるらしい。

 とはいえ各ステータスはゲームのように数値化されていたりはしない。
 ある程度なにに適性があるのかくらいだな。

 んじゃあ見るぜ、と声をかけられ、俺はわかったと頷いた。

 勝手には見れないらしい。
 それもそうか。もし見れたら敵が丸裸だ。

「ステータス、と。──お! スキル三つじゃねぇか。しかも人間にしちゃ、レアだぜ! なるほどなァ、だから人間の王もテメェをこき使うことにしたンじゃね?」
「三つはいいのか。なんだか嬉しいぞ」

 フォン、と電子音がして、映像のようなものが浮かび上がった。

〝大河 勝流(シャル)
 職業:異世界人
 スキル適正:剣技・隠密・魔法陣〟

 リューオがほれ、と見やすいように画面を俺の方に向けてくれる。
 ん、昔と変わらないな。

 ちなみにスキル適正は、生まれつきの適正だ。これがあるとその事柄が凄く伸び易い、と思ってほしい。

 魔法陣なんかは適正がないと、難しいものが殆ど使えないレベルになるのだ。
 隠密も含め、この二つはレアなスキルである。

 ……あぁ、隠密……そうか。
 国王はこれを持っていたから、暗殺者にしようとしたわけか。

 隠密スキルは鍛え上げれば触られるまで完全に気配を消せるので、夜闇にまぎれれば割と無双だ。

 そんな危ないスキルがノーマルなわけなく、珍しい。長年の謎が解けたぞ。

「この文字がシャルの本当の名前なんだな」

 過去に思いを馳せていると、隣のアゼルが俺の画面を一緒になって覗き込んで、ふむふむと興味深そうな様子だ。

 アゼルが見つめているのは、名前欄の俺の本名だった。

 日本語で大河 勝流と書いてあるが、読める人はこの世界で俺とリューオだけだろう。



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