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五皿目 元・勇者VS現・勇者
03
しおりを挟む(まったく、アゼルはなんでモテないと思っているんだ……!)
アゼルは知らないかもしれないが、数少ない魔王城の女性魔族に見たら一日いいことがあるとかで、ラッキーアイテム扱いされているんだぞ!
そして最近俺が男なので男性にもワンチャンあると思われ、見合いの絵画に男が混ざるようになってきた……!
(職なしになったら、付け入る隙が増えるじゃないかっ)
ふん、と意気込む。
そういう理由もあるので、甲斐性のある男になりたいのだ。
かわいくない自分だが譲る気のない俺にも言いたいことがあって、後に引けない。
怒っているわけではないが、お互いに言いたいことを思い切り相手に言いたくて、たまらない。
「こっこの魔界版ジャイヤンめ!」
「! ジャイヤンって誰だよッ!? 俺といる時に、し、知らねぇ男の名前出すなッ!」
そうこうしているとヒートアップする言い合いで、勢い余ったアゼルが、ある言葉をポロっと溢してしまった。
俺の禁句を。
「グルルッ、俺がいるってのによそ見しやがって……ッ! ふんっ、そんなシャルなんか、もう嫌いだぜ! 俺は嫌いだ!」
「んなっ……!」
「あ」
禁句を言われた途端、これまでの勢いが萎む。激化した言い合いは、たった一言で沈静化した。
打って変わって黙り込んだ俺は、勢いで浮かせていた腰を、ポスンとソファーに落ち着ける。
(アゼル……今、なんて言ったんだ? 〝嫌い〟だと? ……お馬鹿め)
ギロリと横目で睨めばアゼルは見るからにあわあわと慌て始めるが、知ったことじゃない。
込み上げてくる来る怒りとなんとも言えない複雑な心情で、俺はじわぁと涙目になってしまう。
「言ったな……? 俺は呪われたって、それだけは言わなかった筈だぞ……?」
「シャ、シャル……」
「もう知らん」
ふんと一瞥し、今度は逆に俺のほうがそっぽを向いた。
慌てたアゼルは急ぎ俺の目線の前に回り込んでくる。
もごついてるのが見えるが、またふんっと顔を逸らす。知らん。
嫌いなんて、そんなことを言われて、俺がなんとも思わないと思ったのか?
アゼルは馬鹿だ。馬鹿アゼルだ。酷い奴だ。もう知らない。
「ぐす……実家に帰ってやる……ッ、魔界なんか……っ魔界なんか滅びてっ! いや駄目だな……」
「!?」
「た、台風直撃……んんっ、と……ちょっとだけご飯がまずくなる……? うう……っ、……み、みんな幸せに暮らしていろッ!」
「う、うぐぅ……ッ!」
潤んだ瞳で膝を抱えて、魔界に向けて呪詛を吐く。
けれど悲しげな呪いだと万が一叶えば迷惑がかかるので、幸福を祈った。
くそう、末永く呪われてしまえ……!
「アゼルだけにはささくれが長引く呪いをかけてやる……! ぐすん、気になって集中力がなくなっても、もう知らないからな……!」
「べ、別居はやめろっ、おっおおっ、おっ俺が悪かった……っ!」
「こんっこんな魔界もう出てってやるぅゔぅ……ッ!」
「ぁうぁああッ!? き、嫌いじゃないですごめんなさいッ! つい意地を張って悪い言い方をしてしまいましたごめんなさいッ! 俺の悪い癖ですごめんなさいッ! シャルごめんなさいぃぃッ!」
全力で拗ねて呪詛を吐く俺に、アゼルが世界滅亡を阻止する勢いでカーペットの上に膝をつき、必死に土下座をし始めた。
ガンガンと硬質な音がしている。
頭がめり込みそうな土下座だ。
それと共にアクセサリーがシャラシャラ揺れて綺麗な音がするが、額をぶつける音で相殺され、なんの風情もない。
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