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後話 欠陥辞書夫夫
05
しおりを挟むだけどガドは、ふぅ、と呆れたようにため息を吐く。
「お前が死にかけて、魔王は一回ダメになった。自分の体を切り刻んだ」
「っ、な……!」
その言葉に焦り、抱き合った身体を離し、ガドに食い気味に顔を寄せて肩を掴んだ。
(な、なんでそうなる……っ)
アゼルは泣きながら自分で、俺がいないとダメになると言っていた。
だがそれがどうしてそうなったのか。
焦る俺を落ち着けと宥めて、ガドはアゼルが話してくれなかった、俺が眠っていた間の話をしてくれた。
「俺達が部屋に乗り込んだら、瀕死で血塗れのお前とその手足を抱えた魔王がいた。とにかくライゼンがお前を治療して運び出したけどな、魔王は黙り込んで動かなくて、この部屋まで引きずってきたんだぜ。俺が」
「…………」
「そんで夜まで処置して、一応峠は越えられたんだ。そうなってようやく黙ってた魔王が話したと思ったら、お前と二人にしてくれって言ったわけよ。だから俺達はなにも聞かずに、部屋を出たわけだ」
「……ん……」
「でも俺は、扉の前で魔王が出てくるのを待ってた。したら、中から嫌な音が聞こえてなァ? 部屋に入ったら、あのバカ。自分の鎌で自分を切ってたワケ」
俺は静かに話を聞く。
魔王は魔力が尽きるまでなら、身体を裂かれてもじわじわ回復するのだ。
吹き飛んでなくなったらどうなるかわからないが、切られたぐらいじゃ死なない。
「とは言え眠るお前を見つめながら躊躇なく自分を虐める姿はぶっ壊れてたから、俺はバカヤローって殴ってやった」
当然だろ? と笑うガドに、こくりと頷いた。
すぐにくっつくのだとしても、やっぱりそれまでは、凄く痛いだろう。
いくら魔族が体の痛みに慣れていても、頑丈な魔王の体に傷をつけられる程切れ味の鋭い攻撃、ダメージは大きい。
痛いと言う生き物の生存本能に逆らったアゼルは、きっとその瞬間、生き物ではなかった。
そんなアゼルを思うと、俺の胸がズキズキと痛んでしまう。
「シャルの前でシャルの大切な魔王にそんな行為、俺が許すわけねぇだろ? だから殴ったんだ。でもな、ぶん殴られた魔王はあっけなく倒れた。自分を守っていなかったからだ」
アゼルは倒れ込んだままピクリとも動かず丸くなり、〝俺がバラバラにしたから、同じ罰を受けないとシャルは目を覚ましてくれないんだ〟と言ったそうだ。
「まあ、お前のことに関しては愚直だからな。本気でそう思ったから、そうしたんだよ。魔界一の馬鹿だぜ」
「ん……まったくだな」
ガドは切り刻む代わりに本気出して殴り、蹴り、正気になれと毒まで使ってどうにか大人しくさせたらしい。
それからどういうことかと無理矢理今度の騒動を語らせ、やっと俺とアゼルの事情を知った。
「その時の俺の気持ちがどんだけぐちゃあってしてたか、お前ならわかるだろォ?」
話し終わったガドは俺をじっと見つめて、唇を尖らせる。
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