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四皿目 絵画王子

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 身体を引き裂かれる気持ちだ。
 そんなものより、心が痛い。

 子犬が気づいた時には、もう藁人形は傷だらけだった。

 泣きながら、釘ごと崩れた藁人形を抱きしめる子犬。

 藁人形はなにも言わない。
 所詮人形。痛みなどない。

 なのに子犬は、アォン、アォンと泣きながら、自分の身体を地面にぶつける。

 釘にこすりつけて、自らを傷つける。

『っ、やめろ、だめだ、お前が傷ついてどうするんだ……っそれ・・はお前が傷つくような価値があるものじゃない……っ!』

 俺が必死に子犬に触れても、この手はなにも掴まない。

 止めることもできず、耳を覆いたくなるような痛ましい泣き声をあげて、子犬は自傷する。

 血塗れの子犬は、藁人形に寄り添うように倒れた。

 物言わぬ人形の薄汚い藁の頬を、熱い舌が謝るようにペロペロと舐める。

 俺は頬を押さえて、涙を流した。

『いいんだ……いいんだよ……抗った最後に、譲れない心が帰ってきた……もう、それだけでいい。壊れてしまったなら、他のものでいいだろう……? な、諦めていいんだ。お前を……アゼル本当に愛する人をこうまで傷つけた、〝俺〟なんてもう……』

 そうだ。
 これは、罰なのだ。

 きっかけはどうあれ、迂闊に利用された俺は、身を裂かれる痛みを愛する人に与えてしまった。

 ならば刻まれて死んでも仕方がない。
 報いなんだ。

 それにお前に殺されるなら……構わなかった。いっそ幸せなくらいだ。

 俺の死因がお前だなんて、素敵な終わりだろう?

 だから泣かないでくれ。
 散々傷つけておいて虫のいい話だが、そんなガラクタははやく見捨ててくれ。

 お前のせいじゃない。
 俺のせいだ。

「──お前らはさァ、なんでそうなんだ?」
『っ、』

 そうして消失を覚悟した俺の心に──突然、予想していなかった横やりが入った。

 それは聞き覚えのある声だ。
 見知った銀色の友人の、マイペースな声。

 なぜお前が、と驚愕し立ち上がると、再びブレイカーが落ちたように、あたりは一面が濃厚な暗闇になった。

 だが、すぐに眩い程の光がゆっくりと溢れ出し、目を開けていられない。

『うっ……っどういうことだ、ガド……っ?』

 眩しい。
 声のするほうへ必死に走る。

 俺は耐えられないなにかに掻き立てられ、わけもわからず懸命に走った。

 銀の友人はいつものようにのんびりと、けれどどこか悲しそうに、独り言じみた言葉をかける。

「どう考えても、そのユーレーが全部悪いだろォ……? 人の愛が羨ましいなんて、僻みやがってな? ……なのに二人揃って、傷つけたのは俺のせい、ごめんなさいのオンパレード。そもそもな、天使の聖遺物にクソ真面目に自分だけで挑むお前らが、おかしいのよ」
『なん……っ、だ、だが、迂闊な俺も、悪かっただろう? だって、あんなに傷つけるなら、一度別れるなりして、一人でどうにかすればよかった……! でも、でも欲張った、離れたくなかった……! ずっと一緒にいたかったんだ!』

 眩い光に向かって走りながら、俺は心の汚い部分を叫んだ。

 諦められないせいで、傷つけただろう?
 そう言っているのに、ガドには届かない。

「な……どうにもならない時はいい加減、人に頼れよ? お前らは」
『っ』
「まぁ今回は、どうしても自分以外に渡したくないって駄々こねまくった馬鹿と、どうしても他のやつなんか愛したくないって泣き出した馬鹿の、粘り勝ちなんだから、さ」
『ば、馬鹿なのか……!? お前は、どこからなにを言っているんだ……!?』

「そろそろほら、さっさと起きて、強がりなわんころをお前の王子様にしてやってくれよ──シャル」




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