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四皿目 絵画王子
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しおりを挟む異様な時間が過ぎていく中──不意にリシャールがピクリと震えて、顔を上げた。
音もなく誰もいない階段の向こうを見つめ、ふぅ、と呆れたようにため息を吐く。
抱きしめていた俺をあっさり離し、そっと手を引いて自分の絵画に案内した。
『余計な邪魔が入らないよう、君の便利なスキルを使って呼んだのだが……怖いね、彼。もうここを見つけた。シャルが私の絵の場所を言うはずないのに、どうやって特定したんだろうか』
「俺の召喚魔法域に匿おう」
『そうだな。燃やされでもしたら困る』
初めからそのつもりで手を引いただろうに。
わざとらしく頷いた幽霊に苦いものも噛めず、俺は壁にかけられたリシャールの絵画に手を伸ばし、召喚魔法で収納した。
召喚魔法は保有する魔力の量で容量が比例する、カバンのような魔法だ。
少しの魔力しか開放されていない俺でも、普段から財布などのよく使う貴重品しか収納していない為、絵画一枚なら収められる。
召喚魔法は魔族の考えた魔法だから、俺は詳しくないが……きっとそう簡単に手出しできなくなる筈だ。
そして前提として、そこにあると誰も知らない。
『絵さえ無事なら、私は霊体だから物理攻撃は一切効かない。多少揺らいでも消えたりしないさ。魔法は、どうだろう……消される程の魔法を受けたことはないからな。でも万が一がある。魔王はいつの時代も怖いからね』
そう言ってリシャールは、やれやれと肩を竦めた。
やはり、ここに向かっているのは──アゼル。
目を覚まして、俺がいないことに気がついたんだ。
部屋を出る時に音は一切たてていないし気配も消していたが、時間は然程経っていないのに、迷いなく向かってくるなんて。
きっと、早い段階で目星をつけていたのだろう。
リシャールの言うとおりそれらしい発言はできなかったのに、声を上げて探し回らずにやってくる。
それは場所がわかっていて、そこになにかあると警戒しているからだ。
(アゼル……ここに、来るのか……?)
穏やかな微笑みをリシャールに向ける俺の頬を、冷や汗が伝った。
今のこの状況は、密会にしか見えない。
言い訳もできないのにこんな状況を見られたら、昨日の不審な行動をきっぱりと裏付ける。
表情に不安すら出せない俺の胸中を、焦りが支配する。
そんな心を見透かしたのか、リシャールは愛おしそうににこりと優しく笑みを浮かべ、そっと指先で顎を持ち上げ唇を重ねた。
「ン……」
──ッ、嫌だ、やめろ……ッ!
それは、酷い裏切りの感触だ。
耳の奥が弾けそうな拒絶を叫んだ筈だったのに、言葉だけではなく体を操られた状態では、触れ合う前髪のひと房すら振り払うことができなかった。
舌の根が縮み上がる嫌悪感。
そして全身が凍ったような罪悪感。
──こいつは、なにをしている……? 俺がそれを許しているのは、一人だけだ……ッ!
もどかしさを通り越して、涙が出そうなくらいだった。
振り払えない、拒絶できない。
まるで望んでしているみたいに感じる。
「……は…、ん……」
俺が動けなければない程、リシャールは存在を色濃くしている気がした。
何度か角度を変え、甘く愛し合う恋人のようなキスをされる。
気持ち悪い。
誰かをここまで拒絶したくなったのは初めてかもしれない。
体が動いていたら、殴りかかっていただろう。
「ふ、……っ」
『フフ、』
しばらく口付けた後、小さく喉を震わせて、リシャールは突然霧のように消えた。
けれど彼が跡形もなく去っても、残された俺の体は依然自由が効かずに、ぼうっと立ち尽くしている。
それと入れ替わりのように視線を感じて……行動の自由が戻って来ない理由がわかった。
「勝手にフラフラすんなよ……」
「ごめん、起こしたら悪いと思ってな」
内側は手立てのないまま奪われていく恐怖に焦燥しているのに、震えることも出来ない。
裏切ったくせに申し訳なさそうに眉まで垂らして見せる俺の体は、階段の上を見る。
今来たばかりなのか──そこには予想通り、アゼルが壁に手をかけて立っていた。
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なの
BL
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