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四皿目 絵画王子
08
しおりを挟む黙って支度を整え始めたアゼルを横目に、俺は尻の下にバスタオルを敷いて脚を開く。
案の定と言うかなんというか、横になっていたのを起き上がった時に「あ」と思った通り、溢れ出たあれやそれは太腿や秘部を濡らしていた。
風呂場でするのは今後厳禁だな……。
お湯が入ってくるから、余計にぐちゃぐちゃだ。
反省しつつ、そこに今からすることの心を決める。
未だに赤くなって捲れている口へ、無心で指を二本突き立てた。
「ン……ぅ……」
これはそう。
なるべく事務的に行かないと駄目だ。
そして速度が全て。速さが命。プロは素早く的確な筈。俺はアマチュアだが。
大きく開いた足の膝に頬を寄せて目を細める。
しかし体内とは熱いな……。
凄くぐねぐねしてる、気持ち悪い。
俺の中はこんな動きをしていたのか。
別に意識はしてないんだが。
なるべく内壁を刺激しないように指を埋め込み掻き出すが、それでは物足りなさそうにキュウ、と締め付けてくる自分の中が情けない。
それで逆上せて倒れたんだから馬鹿だ。俺の体よ。
まったくなんでも感じず、いい加減塩対応を覚えてくれれば良いんだが。
セルフお説教をしつつも指をかぎ爪状にして、懸命に掻き出す。
自分じゃ奥まで届きにくいが、腹筋に力を入れると幾らか出てきた。
赤い肉の割れ目からトロトロと溢れ落ちてくるのを見ると、頭を抱えたくなる。
何回したんだ。覚えてない。
更にお湯のせいで若干漏らしたような状態になっているのが、心持ちよろしくなかった。
膝に少し歯を立て、粟立つ快感を誤魔化す。
「んん……は、あぅ……」
クチュ、クチュ、と濡れた音を響かせながら自分の身体と格闘すると、なんとかある程度綺麗にできた。
指を引き抜くと未だに緩んでいるそこは浅く収縮してヒクヒクと蠢いていたが、今日はもうしない。
……うん。
やっぱりちょっとこう、ウズウズとするが、収まれば寝れるぞ。
「ふぅ、爆弾処理班みたいだな……」
息を吐いてからバスタオルで体を拭い、汚れたタオルを集めて大きな籠に入れておく。
アゼルにさせなくてよかった。
自分でこれなら絶対にラウンド追加で、俺はそれを止めることができないだろう。
残念な事態を回避したことに一安心して、俺も夜着を着ようかと振り向く。
と。
「……見たな?」
「見てねぇ」
いつもの黒い夜着を身に纏って腕を組んでいるアゼルが、非常にわかりやすくあからさまに顔を逸らしていた。
やはり見たのか。
頬が赤いぞ。アゼルは本当に、煽り耐性ゼロなんだな。
まぁでも、見るなと言われれば見たくなるものだ。
仕方がない。今度から見ろと言おう。
(さて……と)
それじゃあ今日のところは、駄目だと言ったのに見たアゼルに、ちょっと意地悪をしないとだ。
俺は籠の中の白い夜着を着て、仕方がない魔王様へ揶揄うようにフフンと笑みを見せる。
「今日はもうしないが……そんな顔をするくらい我慢しているなら、寝る前に俺の血を飲んでみるか?」
「んっ!? わ、わかって言ってんだろ……ッ!」
「ふふふ、もちろん冗談だ。俺ももう体力がないし、今日は夜会前に飲んだからもういらないだろう?」
「(例え毎秒飲んでても俺がお前の血をいらないわけねぇだろうが……!)」
冗談だと言ってやり声を漏らして笑うと、ややあって無言のまま、後ろから抱きしめられた。
アゼルは俺の濡れた髪にキスして、そのまま不貞腐れて拗ねてしまう。
揶揄われたのがよくわかっているのだ。
「可愛いな」
「うるせぇ」
そうして二人で洗面所を出る。
随分遅くなってしまったな。今はもう日付が変わっていると思う。
後はもう共に眠るだけだ。
そう思っていたのに──広い部屋の一番奥、洗面所の入口から最も遠いベッドのあたりに、なにやら光る謎のモヤがあった。
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