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四皿目 絵画王子

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「アゼル、もうよくなってきたから、お前も早く服を着てくるんだ」

 無敵の魔王とはいえ、初めての風邪をひくかもしれない。

 それを危惧する俺はアゼルにバスタオルを押し付けて、着替えの用意された籠を指差す。

「本当に大丈夫か? クソ勇者のせいで、うっかりしてたぜ。人間なんて貧弱脆弱惰弱のトリプル弱々種族……! 風呂に入って死ぬなんてとんでもねぇか弱さだ……! 人間はグッピーか……!」
「まだ死んでないぞ」

 アゼルの中で心配のあまり、勝手に俺が一度死んだことになっている。

 そして人間の防御力がハムスターからついにグッピーになってしまった。

 困る。熱帯魚並の温度管理のもと風呂に入るなんて、情けなくて表を歩けないぞ。
 ちゃんとイメージチェンジしておかねば。

「アゼル、アゼル」
「なんだ? 死にそうなのか?」
「死なないから聞いてくれ。俺はグッピーじゃない。熱湯風呂も水風呂も入れる」

 ドンと胸を張って主張する。

 しかしアゼルは俺に押し付けられたバスタオルを抱きしめて、か弱いものを見る目で見てきた。

 なぜだ。俺はいつまでたっても魔族にハムスターだと思われる運命なのか?

 そんな馬鹿な。
 男として悲しいじゃないか。

 成人男性として譲るわけにはいかないので、ここは断固として目を逸らさず言い募ることにした。

「うーん……よし。正直に言うと、俺は後処理したいんだ。なのであっち向いててくれ。恥ずかしいだろう」
「嘘つけ。今更お前がそのくらいのこと、恥ずかしがるかよ。俺がやる」
「いや、凝視されたら恥ずかしい。流石に。それにアゼル、これはお前にすると多分、難しいんだぞ」
「? なんでだよ。お前がオチたら俺がいつもしてんだぜ」

 訝しくジト目で責められ、そんな理由じゃダメダメと首を振るアゼル。

 いかに俺がオチすぎて後処理の熟練者となっていても、俺が起きている場合、最優先に気遣わなければいけないことがあるのだ。

 大事なコメを伝えるので、俺はピンと人差し指を立て、いいか、と真剣な顔をした。

「さっきまでここで、散々気持ちいいことしてたんだ。まだ腫れてるし、ジンジンしている。つまり今は指でもなんでも、挿れたら感じる。が、それでうっかり勃ったら目も当てられない。体力はもうないんだ。それは重大案件なんだぞ?」

 か弱い以前に成人男性。

 しかも調教済みの俺だ。
 間違いなく反応してしまう。これはそういう話だ。

「あぁ……なるほどな。お前の意識があると、その気になったら無限ループなわけか……。じゃあ俺がそっとやるぜ。任せろ、お前の体は知り尽くしてる」
「ダメだ。自分でやるよりお前にされるほうが欲情するから、危険だ」

 キッと目を鋭くして、より真剣に言い切る。

 あまり俺の体を舐めないでほしい。

 お前にひたすらいろいろなところを触られて、いろいろなところを感じるように開発されているんだぞ?

 もはやアゼル相手ならどこでも、触られると多少なりともムラムラするようになったんだ。

 服の上なら問題ないが、素肌どころか体内を触られたら、変な気にならない自信がない。

 アゼルは俺の身体を知り尽くしてると言うが、俺だって同じだ。

 最早アゼルの指ならどのくらいまで奥へ届くか、覚えているのである。

「んんん……っ……そ、れは、うぐぐ……どうしようもねぇだろうが……!」
「ということで、早く着替えてきてくれ。その間に終わらせる。念の為に……覗くんじゃないぞ? 煽り耐性ゼロなんだろう?」
「お前限定だぞ? いや覗かねぇけど、覗かねぇけどな? 俺に見られて困るのか? 隠し事はナシだぜ?」

 さっきまでフラフラだった俺に目が届かないのが心配なのか、覗くのもだめだというと渋い顔をしてグルルと唸る。

 この唸り声は気に食わない時のだ。

 別に見られていないうちにコソコソとするわけではないのに、心配性だな。

 俺はそばでバスタオルを抱えてしゃがんでいるアゼルの頭をガシッと掴み、素早く頬にチュ、とキスをした。

「ぉあ!? な、なんだよ……!」
「ん──頬にキスされただけでムラムラしてるお前に、俺が自分で後ろに指を突っ込んでいるのを眺めて……手を出さない自信があるのか?」

 もう今日はシないぞ、とダメ押しで言う。

「…………」

 当然、アゼルは黙ってもそもそと、洗面所の奥へ着替えに行った。

 ふむふむ、やはり自信がなかったのだろう。

 ……かく言う俺も拒む自信がないからなんだが。



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