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四皿目 絵画王子
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逆上せた。
それはもう当たり前だが、逆上せた。
頭がクラクラする現在の俺は、浴室と洗面を仕切るカーテンの向こうで、ばたんきゅーだったりする。
とりあえず大事なところをバスタオルで隠しつつ、アゼルにせっせと手で扇がれながら介抱されるだけの状態だ。
この世界にうちわはないらしい。
扇子のようなものはあった気もする。
風呂に入ってから俺が限界を迎えるまで、だいたい二時間はセックスに溺れていた残念夫夫とは俺たちのことだ。
というかそもそも、湯船で体力オバケのアゼルに付き合えるわけがなかった。
くそう、過去の俺め。
ベッドでも未だに先に力尽きるのに、なぜせめて浴槽から出なかったのか。
自分を過信しすぎだぞ。
まぁ、正確にはいつも通り欲に溺れて、前後不覚になっただけだったりするのだが。
今日は吸血していないが、元々理性が飛ぶと歯止めが効かないきらいがあるからな……俺は。
そして俺をせっせと介抱するアゼルは、理性が飛んだわけでもなければ、逆上せてもいない。
普通に本能の赴くまま、俺を抱き潰しただけである。
こっちのほうが質が悪いと思うんだ。
「うぅん……アゼル、中にまだいろいろ入ってるから、なんか漏れてくる……でも今無理だ……今頑張ったら死ぬ……あぁ~……」
洗面台にもたれ掛かって、床を汚すのが嫌だとグデグデ訴える。
イくと同時に逝きかけた俺は全裸で担ぎ出されたままだから、後処理をしていない。
中に出されたものや潤滑油、いくらか入ったお湯が、じわじわ滲んでおりてきた。
──うぐぐ……ちょっと今すぐ括約筋に本気を出させることはできないぞ。
そして風呂場に戻って掻き出す元気もない。
しばらく介抱してもらい多少マシになったが、すこぶるダルいのだ。
「だっ、わかっわかったから、後で俺がやるから死ぬなぁぁ……っ! 闇の回復魔法はスタミナとか中身はどうしようもねぇんだ……!」
「うひっ、ぅ、うおぉぉ……!」
俺の訴えで焦るアゼルが、扇ぐ手の速度をパタパタパタッ、と速め、身震いした。
魔王ポテンシャルだとちょっとしたそよ風が起きてしまって、濡れた体が冷えてしまう。
「し、死なないから風速を下げてほしい……っさ、さむいぞ……っ」
「あわっ、わ、こっこれで!」
「むぐむぐ……ぷはっ、むむ……死因バスタオルは嫌だ……!」
寒さを訴えると手近に積まれたふかふかのバスタオルを、頭から降り注がれた。
暖を取る以前に窒息死まっしぐらだ。
俺はバスタオルで埋もれ死んでしまう。
取りあえずその大量のバスタオルを避けて、ちょっと休もうとぐったり横になった。
あわあわと落ち着かないアゼルは、バスタオルで俺の髪や身体を拭いてくれる。
優しさだ。胸キュンだな。
健気なお嫁さんに心がホコホコする。
「んんん……ありがとう。でもお前も風邪を引くから、早く服を着るんだ」
「俺は生まれてこの方病気になったことねぇから、気にすんな。だからお前、死ぬなよ、死ぬなよ……!?」
「お年寄りでもないんだ。逆上せて死ぬことはないぞ。……うん、よくなってきたな」
頭がグラグラと茹だっていたのが、横になったのと冷めてきたので少し回復した。
俺の体はそこそこ頑丈だからな。
前職は怪我も多い職だった。
ぐっと親指を立てるが、過保護なアゼルはもう少し休めと言い募る。
そんなに虚弱じゃないけれど、魔族と比べると人間はか弱い扱いされてしまう。
体力を増やすためにいろいろ頑張ってはいるものの、なかなか効果が出ない。
ふむ。
これはもっと頑張らなければ。
アゼルが俺の身体の水滴をそーっと綺麗に拭い終わる頃には、ある程度俺の体調は回復した。
バスタオルの山からそっと体を起こしてみる。
よしよし、問題なさそうだ。
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