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三皿目 魔王城の宝物庫
11(sideライゼン)
しおりを挟むそんな愛の深すぎる魔王様を少しも辟易せずに、まるごと受け入れているシャルさんだって、実際のところ非常に愛情深い。
十年間たった一度会ったきりの恩人を慕い続ける、良く言えば一途、悪く言えば粘着質な魔王様のほうが変態的で、おバカな愛し方だが……。
シャルさんは愛する魔王様を、唯一絶対としているフシがあるのだ。
傍から見ればごちそうさまな、お互いがお互いを好きすぎるこの二人。
彼らが深刻な問題でもない物事で、相手にバレないよううまく秘密を抱えられるわけがなかった。
──くっ、これは魔王様の密かな楽しみの場に、うっかり本人様をご招待してしまった私のミス……!
(魔王様の忠実な腹心として、あるまじき失態! 察して先手を打ってこそできる部下です!)
王とその妃に降りかかった己の失態をなんとかするべく、私は急いで手元の絵画をにこやかな微笑みを湛えて、フリフリとよく見えるようにかざした。
「ま、魔王様? 私達は絵画コーナーで、城に飾るものを一つ見繕っていただけです。シャルさんに選んでもらっていたんですよ」
「絵画ァ?」
突然の横槍に、魔王様は私の手にある絵画をジロリと睨みつけた。
魔王様の腕の中で風前の灯火だったシャルさんが、助かったとばかりに目をうるりとさせる。
斑ネズミの様なか弱い瞳だ。
あまり動じない受け入れ気質な彼にしては、珍しく困り果てていたのだろう。
「か、絵画、選んでいたぞ。それは俺が選んだんだ。嘘偽りない真実、本当だ。だから安心してほしい」
シャルさんは私の言葉を裏付けるように、今度はしっかり魔王様の目を見つめて事実だと頷いた。
若干まごついた表情ですが、誤魔化しただけで嘘は言ってませんからね?
大丈夫ですとも。
じーっと青みがかった黒い瞳と見つめ合い、それから絵画コーナーがどのあたりにあるのか、キョロキョロと周囲を見回す。
そうしてようやく魔王様は安堵の息を盛大に吐き出し、ツンとそっぽを向いた。
「ふん、お前の言うことはなんでも信じるぜ。……どうにか俺の思うようなことは、回避できたみてぇだな……」
「ふぐっ……! りょ、良心の呵責が……っ」
いけません、耐えてください。
愛する魔王様の自尊心は守ったとは言え、後ろめたいことがなにもない綺麗な心情ではなくなったシャルさんが苦い顔をするのを、こっそりエールを送る。峠は越した。
──こうして。
バレてしまえば羞恥心で引きこもってしまうだろう修羅場を乗り切った私達は、ようやく色々な意味で魔境だった宝物庫を後にしたのだった。
ただ、恐らくもう一度コレクションを見ていないか、と言われれば、きっと彼は白状してしまうだろう。
魔王様が今日の出来事を忘れてくれることを、祈るばかりである。
魔王城の宝物庫は、歴代魔王様の宝箱でもあったのだった。
三皿目 完食
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