本日のディナーは勇者さんです。

三皿目 魔王城の宝物庫

１０（sideライゼン）

　宝物庫から出ようとしていた私は、突然の風圧に驚いて、一瞬石化してしまった。

　石化解除から、瞬きをして数秒。

　気がつくと風圧の張本人が、シャルさんの両肩に鬼気迫る勢いでドンと手を置いている。

　それだけで状況はお察しだ。

　──こ、これは私達が宝物庫の整理を行っているという情報を得た魔王様が、収集癖露呈の危機に確認に来てしまったのでは……！？

　いやはや。
　では、じゃなくようだ、だろう。間違いない。逃げ出したい。

　誰にでもわかる状況だが、イコールまずい状況でもあった。

　私は魔王様に肩を掴まれている、良く言えば正直者、悪く言えば馬鹿真面目なシャルさんを、恐る恐るチラ見する。

　シャルさんは魔王様に弱いので、もし正直に言えと頼まれたら言ってしまう。

　言わなくても、正解レベルの発言をしてしまうだろう。

　それは彼の美点だが、こと知らんぷりに関してはバッドステータスでしかない。

　私はゴクリと唾を飲み、魔王様を見つめる。

「ここでなにか、み、見たか……？」
「ん……？　ええとだな、ここでは歴代魔王のコレ、……」
「こ、コレ！？」

　──……いけません。
　これはいけませんよ。

　案の定バレているか確認してきた魔王様の勢いに、ありのままを話そうとして、私との約束を思い出したのか言葉を切ったシャルさん。

　私はハラハラと冷や汗を流しながら、事の次第を見守る。
　下手に口を出すとボロが出てしまう。

　約束と魔王様の間で揺れるシャルさんは、オロオロと目線を外側へ散らしながら、懸命に誤魔化す方法を考えている様子だ。

　幸いにして魔王様は、シャルさんの言うことは無条件に信じる。
　それだけは救いだ。

　──ならば、魔王様が言葉の含み・・を考えるのが苦手なタイプだということも加味して、どうにかこの場は知らぬ存ぜぬで押し切れるはず……！

「こ、コレ……とかそれとか、いろいろだ。いろいろなんだ。だ、ダメなんだっ」
「なんで目ェ塞ぐんだっ！？」
（あぁあぁあッ！　シャルさん！　そんな明らかに「なにも見てません！」って態度で目を塞いだら、いくらイエスマンの魔王様でもバレちゃうでしょおぉぉぉぉッ！）

　シャルさんは嘘を吐くのに目を見つめられるのが耐えられないのか、自分の両目を塞いで、最早嘘でもなんでもない言い方で詳細を誤魔化した。

　正直、少しも誤魔化せてない。

　わかりやすすぎてなにかあったことが魔王様に伝わりまくりだ。

「見たのか！？　お前やっぱなんか見たのか！？」
「見てなっ、み、見てない、ないぞ！　ないこともないが、ないぞ！」
「それゼッテェ見てるだろッ！？」
「約束したから、真実は秘密だ！」
「！　お、俺に秘密なことを作んなッ！　俺はお前の夫だろうがッ！」
「あっあぅ……！」

　途中で魔王様は見たか見てないかより、秘密を作られたことがひっかかったらしい。

　旦那様にムギュッと抱きしめられ、罪悪感で呻き声をあげたシャルさんは、あえなく撃沈した。

　私はあちゃぁ、と額に手を当てがっくりとする。我が王ながら、支配欲が酷い。

　いや、よく考えたらこうなることは明白だ。

　魔王様はシャルさんに愛想を尽かされるのを、常日頃非常に心配してらっしゃる。

　万が一にでも秘密裏に他の人へ懸想しようものなら、ツンデレからヤンデレへ一直線間違いなし。