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三皿目 魔王城の宝物庫

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 ──ふと、一枚だけ布をかぶせた絵画があった。

「? これは?」

 なんとなく気になってしまいバサリと布を降ろしてみると、これまたキラキラと輝く美形の絵画である。

 金髪碧眼で線の細い美しい男だ。
 王子様と言った雰囲気だな。

 吸い込まれるような、得も知れない優しい面差しの笑顔が魅力的に見えた。

 そんな彼がこちらをじっと見つめて、愛おしげに手を伸ばしている絵画なのだ。

「──うん、一枚だけ飾りましょうか。と言うのも北館の階段に飾っていた風景画を、うっかり従魔が落としてしまって……おや? シャルさんはそれが良いのですか?」
「ん? んん、そういうわけでもない。しかし一枚だけ決めるのは、目利きのできない俺には難しいから……これにしようか」
「ふふふ、ここの絵画はどれも意匠の産物です。どれを選んでも、魔王城の景観を損なうような物ではありませんよ」

 ライゼンさんは良い物がわからない俺を気遣い穏やかに微笑むと、俺の手からその絵を受取り、覆っていた布で元通りに包んだ。

「さて、そろそろ帰りましょう。外はきっと日も暮れて来ている頃だと思いますしね」
「そうだな、お腹が減る頃だ」

 そうして仕事を終え、宝物庫見学と絵画調達も恙無く終えた俺達は、ほくほくだ。

 来た時同様、二人でのほほんと歴史物の部屋を出ようと、出入り口の巨大な扉までゆったりと歩き出した。

 今日は楽しかったな。
 珍しい物がたくさん見られた。

 ディナータイムでアゼルに話すことがいっぱいできたぞ。

(……うぅん、待てよ。そう言えば詳細は話せないのか……秘密だからな)

 俺はアゼルに嘘を吐くのは苦手だ。
 そもそも嘘を吐くのが下手くそだ。

 基本的に吐こうと思わないしな。
 当然の事だが、悪事を誤魔化す気持ちはないのだ。

 と言うか、今まで吐いたのは俺が恩人の勇者ではないと気がついた時の「なんでもない」だけじゃないか?

 アレも嘘と言うより誤魔化しだから、よりまずいな。

 だとしたらこれは、高難易度クエストに値するぞ。

 良心の呵責に耐えられるか否か、そこがなによりの懸念事項だ。

 自分の機転の利かなさに渋い顔をして立ち止まった俺を、ライゼンさんも足を止めて様子を伺う。

「? どうかされましたか?」
「いや……」
 ズゴォォオンッ!
「「!?」」

 だが誤魔化し切る自信がない、と告げようとした俺の言葉は──突然すごい音を立てて普通の扉のように開いた物凄く重厚な出入り口に、遮られた。

 ──ら、ライゼンさんがゴゴゴゴで開いた扉がいとも簡単に……!

 ちょっとした攻城兵器になるレベルだ。

 そこそこの距離がなければ、紙屑のように吹き飛ばされていたに違いない。

 驚愕に石化する俺達。

 そこへ、開いた出入り口からウン千年の封印から解かれた魔王の復活か? というような血走った目つきで現れた男。


「おっおぉ……アゼル、どうした…?」


 即ち、渦中の魔王そのものだった。

 アゼルは俺の姿を捉えると、質問には答えずにあせあせとなにやら忙しなく辺りを見回す。

 それから大股で近付いて来て俺の両肩に手を置き、必死の形相で尋ねた。

 あまりに突然すぎるここまでの一連の流れには、流石に俺もちょっとびっくりしたぞ。

「シャルッ! こ、ここでなにか、み、見たか……!?」
「ん? ええとだな、ここでは歴代魔王のコレ、……」
「こ、コレ!?」

 クション、と言おうとしてハッとした。

 言ってはいけないんだった。
 こんなに早く高難易度クエストがきてしまったぞ……!



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