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三皿目 魔王城の宝物庫

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 宝物庫の奥には、巨大かつ立派な騎士の石像に両側を守られた扉があった。

 ライゼンさんは入り口同様、白く細い上品な腕で難なく開く。

 傷一つない繊細な腕に触れられ、重厚な扉がゴゴゴゴと口を開ける姿は、やはり違和感がある。

 魔族だから、と言われたらなにも言えないが、ギャップが凄い光景だ。

 ──こんなにも穏やかで美しい人だが、魔界の宰相は伊達じゃないな……。

 部屋の中には財宝ブースと一緒で天井まである巨大な棚があり、石版や像、武器や絵画など様々な物が並んでいた。

 違うのは、一つ一つが術者の魔力供給を必要としない、魔法陣結界で覆われていること。

 透明なガラスのような結界だ。
 ショーケースと思ってもらえれば大丈夫。

 ちなみに魔法陣に関しては、俺は少し物知りだぞ。

 人間国の書物にあった物は、全て覚えさせられたからな。

 魔法陣はスキル持ちの脳に直接焼き付けるので忘れないし、空で書ける。

 なので、歩きながらキョロキョロと見ているだけでも、なんの魔法陣かわかったのだ。
 心の中で少し胸を張る。

 魔法陣結界は術者の魔力と陣の力で、通常の結界魔法が永続的に固定される。

 術者の技量を超える攻撃を受けない限り、基本的には破壊されない。

 魔法陣スキルが必須だが、便利な魔法だ。
 攻撃には不向きなので、俺らしい器用貧乏な魔法でもある。

 それでもコストがかかるので、全て個別にかけるのは手間もかかるだろう。

 流石は魔王城の宝物庫、とふむふむ感心しながら、気になるものを眺めていく。

「それは初代海軍長オータム・リヴァイス様の龍玉ですね。龍玉は、龍の角に成る宝石ですよ。そっちは約四百五十年前、魔王城の改築で取り壊した前玉座……。あぁ、それは初代魔王様の結婚指輪です。彼には子孫がいなかったので、正妃様のものと一緒にここに保存しています」

 ライゼンさんのわかりやすい説明を聞きながら、宝物庫探索は進んでいく。

「なるほど、ここから歴代魔王コレクションなわけだな。これは正妃様の絵画か?」
「その通り。絵画技術は発展していたのと、初代魔王様は大変な愛妻家だったそうで、正妃様関連グッズを軒並みここに保管していたようですね」

 俺は感心しながら説明を聞いていたが、はたと立ち止まり、神妙な表情で小首を傾げた。

 目の前には装飾の美しい食器がひと揃い。
 問題は、若干のソース汚れか。

「……使用済み食器とかがあるのだが……」
「手書きのタイトル付きですとも」

 ライゼンさんは〝初結婚記念日ディナー・チェリナの食器(使用済み)〟と書かれた表札を、悟りを開いた眼差しでハハハと笑い飛ばした。

 初代魔王コーナーの絵画には、燃えるような赤い髪をオールバックにして、禍々しい黒角を額から生やした厳ついナイスミドルがいる。

 年嵩を感じる面立ちが威厳を醸し出す、完成されたイケオジだ。

 そんな魔王の中の魔王たる男が、なぜ嫁の縁の品をコレクション。

 しかも正妃様の絵画を見ると、彼女は精巧なアンティークドールの様な愛らしい少女だった。

 ふむふむ、少女趣味だったのか。

「初代魔王の、俺の勝手なイメージが崩れてしまった。嫁の散髪の髪まで保管されている……」
「なんの因果か、歴代魔王様は愛情深いみたいなんですよ」

 確かに、ここまで出来るのは凄いことだ。

 俺はアゼルの使用済み食器や切った髪を保管しようとは思わないので、俺の愛もまだまだ深みを目指すべきだろう。

 重い、と言われることはあったが、力不足を感じるとは。

 そう言うと、ライゼンさんは「シャルさんはそのままでいいのですよ」と肩をポンポンと労ってくれた。



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