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二皿目 シャル様が物申す
07
しおりを挟む話を聞いているアゼルも俺と同じく、微塵も理解できないようだ。
俺とアゼルは相思相愛。
相互溺愛のラブラブな新婚さんだからな。
そして周りがヒクほど愛が一直線で重く、他の人に興味がないからな。
アゼルは魔眼を発動させそうなほど睨みつつ「愛し合ってんだから桃色オーラは当たり前だろ。お前らも恋人作ってオーラだせばいいじゃねぇか。頭大丈夫か?」と唸った。
簡単なことなのになにを言ってやがる、と憤慨するアゼルは、それができないからイライラするんだとリューオに睨み返されてる。
全力で同意のトルンだが、魔王は睨めなかったみたいだ。ヘタレめ。
そんな独り身と既婚者の睨み合い。
俺は大分胡乱げな目で、彼らを見下ろしている。
そら見たことか。
雲行きがくだらない動機に向かっている気配を感じた。
「──それで今日たまたま所の入り口に桃色人間を見つけたので、ひん曲がった性根が疼いたと言うか……。いくら普段ラブラブだろうが絶対内心思うところあるだろう! と思って、包み隠さず素直になぁれ! みたいな……? あわよくば喧嘩しろとか思ってないですよ? 思ってないですけど、まぁ……ちょっと凶暴化して、人の悪いところばかり見えちゃう呪いかけちゃおうぜ! 的な……? そういう悪戯でした」
「まァシャルのやつが呪い掛けられても天性の良い子ちゃん健在で、まろやか~な罵倒しかしてこなかったから、誰とも喧嘩にならなかったけどな。平手すらグーパンでもなく寸止めだしよォ。ジャーマンはめっちゃ綺麗だったけど」
トルンが動機を告白すると、呪われていたらしい俺のあれこれを思い出してたリューオが、しみじみと零した。
その言葉にアゼルとユリスが「あ~……」と揃って納得の声を上げ、うんうん頷く。
なんだその反応は。
誰の罵倒がまろやかだって?
ピリッと辛口だっただろう。辛すぎて火を吐くレベルの筈だ。
尖った気分の俺は散々本気で文句を言ってやったし、ジャーマンだって本気だ。
取り敢えず事態を纏めると、トルンは辛口の俺とアゼルを喧嘩させて、俺達の仲をちょっと拗れさせたかったらしい。
だが、この状況は思っていたのと違うようだ。
「ちょっとした悪戯で、人間が魔王様に怒られればいいかな~と思ったのですが、まさか、魔王様が尻に敷かれているとは知らず……! 申し訳ございません! い、命だけは!」
「尻に敷かれる、物理的にもな」
「本当に」
仲いいなこの二人。
信じられないものを見たと言わんばかりのトルンだ。
アゼルは俺の前ではこんな感じだが、俺がいないところではじゃれたりしない様だ。
しかし既に公開告白をさせられ床に頭から突き刺されているのを見られているアゼルは、メンタル強化に成功していてとっくに開き直っているので、部下に見られていても気にしていない。
むしろだからなんだよどうでもいいからさっさと解呪しろ、生皮剥ぐぞ? と目で冷ややかに語っていた。
向けられる恐ろしげな威圧感に、あまり魔力が強くないトルンはすっかり青ざめている。
「す、すぐに呪いを解除します!」
そう言って、視線が痛いトルンは俺に向かって手をかざし、ブツブツ解呪の詠唱を唱え始めた。
呪った本人はそれでいつでも解除できる。
しばらく唱えると、パァ、と手のひらが光って俺を照らす。
やめろ眩しい。
嫌がらせなら受けて立つぞ。
俺は呪われていても変わらないのだし、そのままでもいいんだからな。
腕と足を組んだままトルンを睨んでいる俺を照らし続ける解除の光。
なんワット出ているんだ?
眩しいと言うに。
なんだまったく。
なんだ。
なんだ?
なん……、……。
詠唱が終わった頃。
眩しさに目をぱちぱち瞬かせると、光がすんなり収まっていく。
──なにか……なにか、さっきまでこの世の全てに苛立っていたような気がするが……。
夢から覚めた気分のまま、組んでいた足をすとん、と落す。
尻の下が温かい。
そっと温かなそれから降りる。
重みがなくなってすくっと立ち上がったアゼルは、椅子から進化して魔王に戻れた。
立ち上がった彼はじーっと俺を見つめ、心なしか期待感に満ちた表情で、そわそわしている。
改めて周囲を見回す。
視界の端には、ジャーマンで開けた床の穴が見えた。
荒れた室内。
都合良くなくならない記憶。
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