本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
上 下
214 / 901
二皿目 シャル様が物申す

01

しおりを挟む


「俺はお前のその、美少年なところが気に食わない。可愛すぎる。ふざけるな。俺にも分けてほしい」

 確かな口調で憤慨気味に言い放ち、クッと目の前のユリスを睨みつけるのは、俺──シャル。

 時はティータイム。
 午後のある日だ。

 所は、乱雑に積み上げられたたくさんの本や研究道具、魔導具が置かれた、魔王城附属の魔導具研究所本部。

 足と腕を組みながらふてぶてしくソファーに座る俺の前で、俺から罵倒を受けたユリスは、額に手を当て深いため息を吐いた。

「重症だね……」
「だろ? 早いとこあの馬鹿魔王にバレる前になんとかしねェと、うっかりもう嫌いだとか言われちまッたら、泣きながら崖下にでも飛び降りるぜ」

 俺の横に座っているリューオがため息の返答をしつつめんどくさそうな表情のまま、不躾に顎で俺を指す。

 まったく、いつもながら不遜な男だ。
 ユリスに隣に座るのを拒否されたからと言ってスネないでほしい。

「距離感が縮まらないぐらいで拗ねるな、リューオ。大体ユリスの研究所に入る為に俺を無理矢理引っ張ってくるような、強引なところがよくない。尖るのは頭だけにしろよ?」
「わぁったから黙ってろよ目ェ据わってんだよオラ」

 スネたリューオは俺の頭をパシッと叩くから、ジト目で抗議したが素知らぬ顔だ。
 なんだって俺はいつもより多めに叩かれているんだろう、なんにも悪いことはしていない。

 不満たっぷりの俺と雑に扱うリューオを見ながら、白衣姿で渋面のユリスは胡乱げな目をしつつ考え込んでいる様子。

「で? 普段自分対象の負の感情なんて殆ど皆無で、この世の悪意を軒並み抱き込むようなのほほん男が、一体どうして微妙に優しく罵倒してくるわけ? 生易しくて鬱陶しいよ。仕方ないから、さっさとどうにかしないとダメじゃない」
「いや、それがわかんねェんだよ。コイツ連れて行ったらユリスに追い返されねェから封印の鍵的な意味で連れてきたら、門の前で突然〝口の悪いところは早く直せ馬鹿野郎〟とかなんとか言い出して睨んできたぜ」
「まず連れてきてもお前だけ追い返すよバカッ! フンッ。……とりあえずシャルのアホバカは調べてみるけどね」
「つれないところも頼りになるところも最高に可愛くて好きだぜユリス」

 リューオの語尾にハートがつきそうなくらい甘い言葉を無視して、ユリスは席を立つと、なにやら魔導具の山を漁り始めた。

 冷たい。冷たいところが可愛いのか?
 可愛いのはやめろと言ったのに。

 そもそもこの二人はいつまでも進展しない。
 リューオはいい加減押してだめなら引いてみればいいし、ユリスは心底お断りならさっさと剣でも喉元向けてやめなさいって丁寧に言えばいい。

 今後どうなるのかハラハラヤキモキする。心配だ。なぜ俺に心配をかけるようなことをするんだ。

 末永く幸せになれあんぽんたん達め。呪術を学んで死ぬまで祝ってやる。

 悔しさとヤキモキからギリギリ音をたてて歯ぎしりをすると、うるさいと言ってリューオに頬を揉まれた。

 むにゅむにゅするな、酷い。
 そういうところがよくないのだ。


 不機嫌に腕と足を組んだままむにゅむにゅに耐えて、しばらく後。

 ユリスが土台のついた小型の水晶玉を持って、こちらに帰ってきた。

 水晶玉からはダウンジングのような角型のアンテナが一つついていて、ユリスが俺にそれを向けると、水晶玉はピコピコカラフルに色を変えていく。

 人様に妙なものを向けるんじゃない。

 向けますよと言ってからにするんだ馬鹿者め。
 しっぺにデコピンとババチョップをされたって文句は言えない暴挙だぞ。

「なんだコレ」
「状態異常検査の魔導具。魔法かかってる可能性高いから……って、出た。もうっこの無警戒ネズミ! 低レベルだけど完璧呪われてんでしょ!」
「ハァ? まじかよッ!」
「俺はのろくない」
「「違う(ちげェ)よッ!」」

 一斉に罵倒されて、俺はチッと舌打ちをした。
 鈍いだなんて酷い。俺は素早く動ける。

 水晶の画面には〝状態:呪い(普段思っている悪口を言う・性格横暴化・気性荒化・攻撃性大)〟と書かれているが、なんの話だかわからなくてフンッと顔を逸らす。呪うのは俺だと言うに。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...