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一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です
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しおりを挟む「アゼルは俺が来る前の休みの日、なにをしていたんだ?」
「魔王に休みとかあんまねぇけど……今日みたいに仕事少ない日は戦闘訓練がてら体動かしたり、夜は散歩に出てそのまま寝てたり……魔王は世襲制じゃねぇから、王族とかいねぇんだ。対等な立ち位置のやつがいない。言っとくけどな、俺は就任以来プライベートは恐ろしく一人だぜ。友達いねぇぞ」
「ば、馬鹿な……!」
なんでもないように告げられた嫁の衝撃の事実に、俺は手が震えた。
なんてことだ、寂しすぎる。
いやだが、アゼルは一人でなんでもできる上に、誰かに頼ることもしないし素直じゃないからな……。
態度も尊大で、なかなか実は繊細な精神だということに気がついてもらえない。
なにを言われても動じないような強い魔王に見えるが、泣き虫で照れ屋で感情豊かなのだ。
それに気がつくまでが長すぎるのだろう。
なんてったって十年前にようやく剥がれ始めた強がりの化けの皮だ。
もったいない。
もったいないぞ。
俺はなんだか悔しいような、焦るような、なんとも言えない気持ちになる。
「ライゼンさんとはよく話しているし一緒にいるじゃないか。ガドやリューオとも気が合うだろう? 友達じゃないか?」
「ライゼンは部下だろ。ガドは弟みてぇなもんだけど、まぁそれは理由あるしな……アホ勇者はアホ勇者だ。他国でもここでも友達とか、なろうって言われたことねぇよ」
「なろうと思ってなるものではないと思うぞ」
「えっ」
アゼルの目がまんまるになる。
どうやら友達の作り方すらよくわかっていなかったらしい。
友達の基準はそれぞれだが……恐ろしいほど人付き合いが下手くそだ。
俺はちょっと心配になったから、妃だけじゃなく友達も兼ねることにした。
大丈夫だ。
俺も友達は狭く深くの少数精鋭派だった。
今日はベッドで恋話とかをしような。
昔修学旅行でやったことがあるぞ。
すぐに変態談義に発展して知識足らずから混じれず、寝てしまったが。
「意味わかんねぇな……。告白しねぇと恋人はできねぇしプロポーズしねぇと番はできねぇのに、友達は勝手になってんのかよ……。許可取らねぇの……? いつから友達かわかんねぇだろ……」
「うぅん、俺も友達は少ないんだ……。細かいことはよくわからない。……でも友達かわからないなら、本人に聞けばいいんじゃないか?」
「違うって言われたら瀕死だぜ? それは」
「そう言われたらその人と友達になれるように日々頑張ればいいから、きっと大丈夫だと思うぞ」
「…………俺はお前のそういうところ、まぁ、その……イイと思う」
「んん? ありがとう」
不器用なアゼルと馬鹿真面目な俺で友達談義をすると、尊敬の目でキラキラ見つめられた。
……で、でも俺だってどうしても無理だと言われたら諦めるし、無理矢理どうこうしないからな?
強引なやつだと思われたら嫌だな。
ソファーの前のローテーブルの紅茶に口をつけ、心を落ち着ける。
なにをするか考えていたのに、いつの間にやら話がそれている。
俺達あるあるだから仕方ない。
今日の残りの時間はなにをするか……。
そう思うと、せっかく二人でいるのだから二人だけでなにかしたいと思った。
友達を作ろうとかもったいないとかなんとか思っていたくせに、やはり二人っきりが一番好きなんだ。
俺はズルい男だから。
「ディナーまで数時間あるな。なにをしようか」
「俺は……お前の好きなことになんでも付き合うぜ。暇だしな。あれだ、家族サービス……? ちげぇな、いや、うう、とにかくそういうことだ」
「言ったな? 俺に付き合ってくれるんだな?」
「んっな、なんでもやってやるぜ……!」
カップをテーブルに戻してチラ、と視線をよこしつつ確認すると、妙にいい姿勢で背筋を伸ばしてどっしり座り直され、ばっちこいな構えを取られた。
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