上 下
210 / 901
一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です

15

しおりを挟む


「アゼルは俺が来る前の休みの日、なにをしていたんだ?」
「魔王に休みとかあんまねぇけど……今日みたいに仕事少ない日は戦闘訓練がてら体動かしたり、夜は散歩に出てそのまま寝てたり……魔王は世襲制じゃねぇから、王族とかいねぇんだ。対等な立ち位置のやつがいない。言っとくけどな、俺は就任以来プライベートは恐ろしく一人だぜ。友達いねぇぞ」
「ば、馬鹿な……!」

 なんでもないように告げられた嫁の衝撃の事実に、俺は手が震えた。

 なんてことだ、寂しすぎる。

 いやだが、アゼルは一人でなんでもできる上に、誰かに頼ることもしないし素直じゃないからな……。

 態度も尊大で、なかなか実は繊細な精神だということに気がついてもらえない。

 なにを言われても動じないような強い魔王に見えるが、泣き虫で照れ屋で感情豊かなのだ。

 それに気がつくまでが長すぎるのだろう。
 なんてったって十年前にようやく剥がれ始めた強がりの化けの皮だ。

 もったいない。
 もったいないぞ。

 俺はなんだか悔しいような、焦るような、なんとも言えない気持ちになる。

「ライゼンさんとはよく話しているし一緒にいるじゃないか。ガドやリューオとも気が合うだろう? 友達じゃないか?」
「ライゼンは部下だろ。ガドは弟みてぇなもんだけど、まぁそれは理由あるしな……アホ勇者はアホ勇者だ。他国でもここでも友達とか、なろうって言われたことねぇよ」
「なろうと思ってなるものではないと思うぞ」
「えっ」

 アゼルの目がまんまるになる。
 どうやら友達の作り方すらよくわかっていなかったらしい。

 友達の基準はそれぞれだが……恐ろしいほど人付き合いが下手くそだ。

 俺はちょっと心配になったから、妃だけじゃなく友達も兼ねることにした。

 大丈夫だ。
 俺も友達は狭く深くの少数精鋭派だった。

 今日はベッドで恋話とかをしような。
 昔修学旅行でやったことがあるぞ。

 すぐに変態談義に発展して知識足らずから混じれず、寝てしまったが。

「意味わかんねぇな……。告白しねぇと恋人はできねぇしプロポーズしねぇと番はできねぇのに、友達は勝手になってんのかよ……。許可取らねぇの……? いつから友達かわかんねぇだろ……」
「うぅん、俺も友達は少ないんだ……。細かいことはよくわからない。……でも友達かわからないなら、本人に聞けばいいんじゃないか?」
「違うって言われたら瀕死だぜ? それは」
「そう言われたらその人と友達になれるように日々頑張ればいいから、きっと大丈夫だと思うぞ」
「…………俺はお前のそういうところ、まぁ、その……イイと思う」
「んん? ありがとう」

 不器用なアゼルと馬鹿真面目な俺で友達談義をすると、尊敬の目でキラキラ見つめられた。

 ……で、でも俺だってどうしても無理だと言われたら諦めるし、無理矢理どうこうしないからな?

 強引なやつだと思われたら嫌だな。
 ソファーの前のローテーブルの紅茶に口をつけ、心を落ち着ける。

 なにをするか考えていたのに、いつの間にやら話がそれている。
 俺達あるあるだから仕方ない。

 今日の残りの時間はなにをするか……。

 そう思うと、せっかく二人でいるのだから二人だけでなにかしたいと思った。

 友達を作ろうとかもったいないとかなんとか思っていたくせに、やはり二人っきりが一番好きなんだ。

 俺はズルい男だから。

「ディナーまで数時間あるな。なにをしようか」
「俺は……お前の好きなことになんでも付き合うぜ。暇だしな。あれだ、家族サービス……? ちげぇな、いや、うう、とにかくそういうことだ」
「言ったな? 俺に付き合ってくれるんだな?」
「んっな、なんでもやってやるぜ……!」

 カップをテーブルに戻してチラ、と視線をよこしつつ確認すると、妙にいい姿勢で背筋を伸ばしてどっしり座り直され、ばっちこいな構えを取られた。




しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...