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一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です
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しおりを挟むぺらりとページを捲ると、次の見出しは好感度アップ胸キュン特集だった。
ユリスに聞いた壁ドンや顎クイが乗っている。
「よしアゼル、せっかくお前といるんだ。よそ見されないように好感度をあげよう」
「まずよそ見しねぇよ」
「だからといってお前の愛に甘えて好かれる努力を怠る俺じゃないぞ」
「んぅ、」
好かれているのがわかるからこそ、好きでい続けてもらえるように日々頑張るのが対等な愛ではないか。
頭を上げて、真面目な顔でよそ見はしないというアゼルの顎を頬ごと掴み、くいっとしてみる。
一回のくいじゃよくわからないから、何度か四方八方くいくいとアゼルの端正な顔を動かしてみるが、手応えはない。
「どうだ? 俺のこと好きになってくれたか?」
「元々好きだ」
「んむ。俺も好きだ」
アゼルをじっと見つめてくいくいとしていると、仕返しに顎を頬ごとガシッと掴まれ、クイッとされた。
けれど好感度は上がらなかった。
よく考えたら、俺の中のアゼルの好感度はカンストしている。
なんということだ。
そんな簡単なことに気が付かなかった。
相思相愛だと効果なし。
この分じゃ、他の方法も楽しいだけであまり意味はなさそうだ。
「ぷはっ。んん……愛し合っていると意味がないのか。指チューとか壁ギュウとかがあるらしいが、やめておこうか?」
「…………」
「やろうか」
無言でやりたいアピールをするアゼルの為に、結局全部やることにした俺である。
なんだかんだ、こう言うことが好きなんだな。
──ちなみに最終的には部屋の角を使って両手足でドンする〝蝉ドン〟なるものを実践することになったが……。
俺が角で待ち構えて「よし! こい!」と言っているところに、アゼルが助走をつけて「いくぜ!」とノリノリでジャンプした瞬間。
仕事の話をしにきたライゼンさんが部屋に入ってきて、決定的瞬間を目撃される事案が発生した。
阿鼻叫喚のヒトコマだ。
当然今後蝉ドンは封印することになった。
……恥ずかしすぎる!
◇
大人気なく舞い上がりノリノリになってしまったことを反省して、俺達はそれはそれはおとなしく夕食を終えた。
魔王の部屋の浴室には、金色の猫脚が可愛らしい大きな備え付けのバスタブがある。
二人共部屋にいる時は高頻度で一緒に入ったりするのだが、今日はしょんもりと順番に入った。
就寝までの時間も俺はストレッチ、アゼルは読書と、いつも気が乗ったらする吸血タイムを差し置いて非常に健全な夜だ。
大の大人の男二人がはしゃぎにはしゃいだのを、魔王城の良心である彼に見られたのが、相当効いている。
夜も更けてきたので、アゼルはカプバットが置いていった日々必ず発生する系統の書類を処理しつつ、明日の予定を確認中。
ベッドの中から整った横顔をじっと見つめるが、気が付かない。
俺の視界のアゼルは時折阿鼻叫喚を思い出しては、頭を抱えてぐねぐね悶絶していた。
普段は見られた程度じゃあんなに恥ずかしがらないのだが、今回は人が悪かったのだ。
──ライゼンさんは親のいないアゼルにとって、魔王としての仕事や私生活を支えてくれたお母さんのような存在だからな……。
そういう意味では俺の姑である。
意味のわからないイチャイチャを姑に見られるなんて、流石の俺だって色々逃げ出したくなった。
表情が大きくは出ないのでいつものほんとした真顔気味の俺と、なにも考えてなくてもいつも仏頂面のアゼル。
そんな俺達が珍しく無邪気な満面の笑みであははうふふしていたのが、ライゼンさんは衝撃すぎたらしい。
相互に絶叫した後、我に返ったライゼンさんに至極冷静なツッコミを貰ったからというのもある。
思い出すのは、血でも吐きそうな痛々しいライゼンさんの微笑み。
「貴方様が昨日仕事を前倒し、本日を午後休にしてまでやりたかったことは、壁に追い詰めた自分の番に飛びかかることなんですか?」
優しくそう尋ねられたアゼルの心情と言ったら……うん。
ツライ。
ツラすぎる。
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