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一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です

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 そんな緊張のタルト生地を氷室で冷やしてからタルト型に貼り付けて、フォークで表面に穴を開けたらオーブンに突っ込む。

 その間にキャラメル、バター、生クリーム、はちみつと、待望のくるみ様を煮込んで後で上に乗せる中身を作っておいた。

 くるみが好きなアゼルが甘いものでコーティングされているくるみをじーっと見つめるものだから、つい甘やかしたくなってスプーンで一つ掬う。

「一口だけだぞ? ほら、あーん」
「あっ、あーんっ!?」

 バッと両手で口元を押さえて、全力で顔を逸らされた。

 嫌なのか? 大丈夫だ。
 ちゃんと洗ってあるスプーンだぞ。

 アゼルは毎日一回以上はキスしているのに、間接キスは嫌なんだな。嫁の好みは覚えておかないとだ。

 スプーンは洗ってあるから大丈夫だぞ、と言うとアゼルはなぜか逆に肩を落としていた。

 しかしキャラメルくるみを食べると、黙ってモグモグしながら「悪くねぇな」と呟く。

 アゼルの悪くねぇな、は気に入ってくれているということに少し前に気がついたので、俺は頬を緩めるのだ。

 焼けたタルト型に作りおきのタルトの中身に大活躍なカスタードクリーム、アーモンドクリームを敷いて、上からキャラメルくるみをぎっしり乗せた。

 二種のクリームを使うと魔導オーブンの加減に繊細な魔力操作を必要とするが、流石に慣れているので設定にミスはない。

 俺はこの瞬間が、大好きだ。

 これを焼くと美味しいお菓子になるのだ。
 待ち時間にオーブンから香る甘い匂いも、大好きだ。

 自然にやにやしてしまう。
 いけないな、でもニヤけが止まらない。

 ウキウキとオーブンにタルトを入れて閉めると、アゼルが背中に抱きついて頬を寄せてきた。温かい。

 しかしついさっきまで興味津々、俺の手元を真似て感心していたのに、今は少し拗ねている。

「アゼル、お菓子作りはつまらなかったか?」
「お前の好きなもんはなんでも好きだ。料理もしたことねぇし、コレは楽しかった。でも一番お前が好きなのは俺じゃねぇとダメだろォが。浮気はよくねぇぞ」
「浮気?」

 楽しんでくれたなら良かったが、浮気と言われて首を傾げる。

 誤解だ。
 なにがどうかはわからないが、俺はアゼルが一番なのだ。

 不安にさせるなんてとんでもないので、くるりと振り返り正面から温かな身体をぎゅっと抱きしめる。

 自分で言うのもなんだが、俺はどうしようもないほど手酷く振られない限り好きな人をずっと好きでいる。

 損だ馬鹿だと言われるが、誓って浮気はしない。

「俺の一番はいつだってお前だ。この指にはこれ以外の指輪を嵌める気はないぞ。一体俺は誰と浮気したんだ?」
「オーブン」

 ……アゼルの嫉妬の対象は、無機物も込みらしい。


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