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一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です

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 もう半年も前の話を思い出して、なんとも言えない気持ちになる。

 この魔王様、常時回復スキルがあって、心臓を串刺しにしたくらいでは死なないのだ。

 一秒以内にオーバーキルしないといけないので、三回は刺さないといけない。
 そして五段階の形態を持つ、チート魔王である。

 ゲームだったらコントローラーを投げているレベルで、歴代でも屈指のポテンシャルを持つのだ。

 そうとは思えないごねごねっぷりで、アゼルはどうにかして絵本を亡きものにと企む。

 それでも足を止めないものだから、ごねごね魔王を背中に張り付けて歩くうちに、リューオの部屋に到着してしまった。

 こらこら、親の敵でも見るように扉を睨むのはやめろ。
 そんなに睨んでも俺は開けるし、絵本は返すぞ。

 困ったさんだな、と思いながら、コンコンと扉をノックする。

「リューオ、シャルだ。絵本を返しに来たぞ」
「おー入れよ」
「あぁ、おじゃまします」

 許可をもらったので、ガチャ、と扉を開けて中に入った。

 元・勇者の俺と現・勇者のリューオは初対面こそ憎まれる間柄だったが、唯一の同じ世界出身者と言うことで、仲がいいのだ。

 アゼルを張り付けたまま部屋に入ってきた俺を見て、出迎えようとしていたリューオはげげっと悪事がバレたような顔をした。

「魔王テメェなんでいンだサボりかよォ!」
「あぁ? 今日はほぼ休みなんだよバーカ。それよりお前なんつう絵本シャルに見せてんだオイ! 無駄知識で怖がられたらどうすんだ呪うぞ?」
「アァゼッテェそれだと思ったわァ! ちょっとした嫌がらせじゃねェかッ。気にすんなよ、な?」
「残虐非道な魔王様だから聞かねぇな」
「このポンコツ暴走魔王ッ!」

 どうやらアゼルは絵本の内容が魔王は悪だということを子供に教える童話だったことに、腹をたてていたみたいだ。

 そうだな。
 自分を貶す内容は面白くないだろう。

 無手のリューオにアゼルが剣を召喚して斬りかかろうとするので、俺は慌ててアゼルの服をくいっと引っ張った。

「止めるなシャル、この悪ガキは今仕留めねぇと!」

 グワッ! と牙を剥いて威嚇されるが、ちっとも怖くないので問題ない。

「落ち着くんだ、無闇矢鱈とリューオを仕留めてはいけない。アゼルは優しい魔王だろう? 俺はいつも見ているぞ」
「いっ、もちろん俺は優しい魔王様だ」

 怖くないのでどうにか引き止めると、聞き分けのいい優しい魔王様は剣をしまい、フスンとドヤ顔をした。

 うん。
 悪逆非道になっても嫌いになったりしないが、ならないところがアゼルなのだ。

 召喚魔法で絵本を召喚して、俺はありがとうとリューオに返却した。

 絵本を受け取ったリューオは、また何事もなかったかのように俺に抱きついているアゼルを、解せない表情でじっとり見つめる。

 ん? 可愛いだろう?
 あげないぞ、俺のだ。

「シャルよォ、お前はなんでその鬱陶しい状況に慣れてんだ? リア充すぎてムカつくから、あえておどろおどろしい絵の魔王の本選んだのに」
「やっぱわざとかよ失恋勇者」
「まだ失恋してねェよ。つか落とすまでやれば失恋なんてねェ! ソシャゲのガチャだって出るまで回せば爆死じゃねェだろ? それと一緒だオラァ」
「あ? そしゃげのがちゃってなんだよ」
「わかりやすい」
「な?」
「シャルとわかりあってんじゃねぇよ。同郷ってだけで調子のんな。尖ったド頭しやがって、金平糖かよ」

 質問に返すより先に現代トークについ頷くと、アゼルはぐるるとうなり声をあげてリューオを威嚇した。

 まとまった空いた時間のない社畜生活だったリーマンな俺の唯一の趣味が、スキマ時間にするゲームだったのだ。

 つい反応してしまった。許してほしい。

 けれど話に置いてけぼりにされるのは誰しも嫌だと思うので、ごめんと謝り頭をなでる。

 なでられたアゼルは、口元をへの字に歪めて黙りこんだ。

 そうそう。アゼルはなでなでをすると、たまに黙るんだ。

 頭頂部にスイッチがあるのかもしれないぞ? ふふ、冗談だ。



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