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一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です

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 前述の通り、全ての魔王は歴代勇者戦無敗である。

 魔王を倒して来いということは、生きていられては困るから死んでこいと言う意味だと、察するにあまりあった。

 だけど寂しかった俺は……見捨てられたとわかっていても、魔王を倒せばまた国に帰れると思ったのだ。

 投げやり気味だったけれど、決死の特攻を仕掛けた。

 ──が。

 あっさり返り討ちにあい、血溜りにドボン。それはもう本当にあっさりと。

 兎に角頑張るが唯一の戦法である俺も、当時は流石に死を覚悟したのだが……。

 なぜか目を覚ますと、天蓋付きのふかふかベッドの上で檻の中に入れられ、魔王の捕虜として捕まっていたのである。

 ふふふ。
 思い返すと間抜けだけれど、これが始まり。

 俺を捕まえた魔王は〝俺の吸血家畜としてそばにいろ〟と言ってきてな。

 いくら流され体質でもそんな一生は流石に嫌だから、俺は今すぐ吸い殺してくれと言った。

 けれど魔王は俺を殺さず、叫びながら逃げていったんだ。

 後で判明したが魔王の種族──狼型吸血鬼クドラキオンは、吸い殺してくれイコール結婚してくれだったらしい。

 いやはや、うっかり。
 文化の違いだな。

 そして魔王曰く吸血家畜にする理由は、異世界人は血がうまいんだそうだ。

 俺はそれで捕まったのかと納得していたが、事実は違う。

 本当は魔王の昔の恩人が勇者な上に俺と同じ名前で、乗り込んできた俺を彼と勘違いしたことから、確保されたんだ。

 そう──勘違い。

 実際は〝シャル〟と人間国で呼ばれていた俺はその彼──先代勇者の名前を民衆を欺く為に呼ばれていただけで、全くの別人。

 真実が判明する頃には、俺はすっかりいつも全力でぶつかってくれる彼を──アゼルを、愛してしまっていて。

 最強なのに泣き虫で口下手で素直になれなくて誤解されやすい、本当はとっても繊細な魔王を、離れがたいほど求めてしまい。

 そしてアゼルも……俺を同じように、愛してくれていて。

 その愛を失いたくないと切望していた真っ只中に、乗り込んできた現・勇者に拐われたりしたがな。

 それでも紆余曲折あって、俺が何者でも変わりない想いがあると、お互い確かめ合った。

 現在は結婚まで漕ぎ着け、晴れて朗らか和やか夫夫である。

 魔界は同性婚異種族婚両方ウェルカムな、細かいことは気にしない国だったのだ。

 ──ふーむ。
 こうして振り返ってみるとカオスだな。

 ちなみにプロポーズのきっかけは、本来の意味を知らない俺が吸い殺してくれとベッドに連れ込んで告白したから、である。

 一晩中愛し合った後にアゼルもプロポーズしてくれて、今の俺達は結婚後ひと月の新婚さんだ。

 神に誓う結婚式をする習慣がない魔界では教会がそもそもないので、式を挙げることはできなかったが、指輪は交換した。

 もちろん給料三ヶ月分だ。
 アゼルの給料三ヶ月分だととんでもない指輪が買えてしまう。

 ジュエリーショップでセレブ買いをキメそうになるアゼルを必死で止めたのが、懐かしい。

 彼は魔界の運営費はきちんと考えて適切に割り振っているのに、自分のポケットマネーには無頓着で限度を知らない。

 どんぶり勘定はやめさせないと。

 閑話休題。
 長い話を聞いてくれてありがとう。

 プレゼントを山と贈ってきたある日を思い返しながら、アゼルの髪をなでる。

 俺の左手の薬指には、石のついてないシンプルなプラチナのリングがはまっていた。

 ダイヤがついていると巨大なやつを買おうとするものだから、こうしたのだ。

 お揃いのそれの内側には、お互いの名前が掘ってある。

 俺は毎日指輪にキスをする。
 今日も愛していると、変わらない愛をこっそり告げるのだ。

「んん……」

 和やかな朝の時間を満喫していると、膝の上ですやすやと眠る彼の瞼が僅かに震えた。

 起きるかな、と優しく見つめる。

「ん……ふっうあ……っ!?」
「おはようアゼル」
「おっおはっ、おはっ……ひざまくら……っあわぁぁぁ……っ」
「うん!?」

 朝に弱いのでぼやんと目を覚ましたアゼルに、にこりと笑って挨拶をする。

 が──状況を理解すると同時に、アゼルは転げ落ち床にゴチンッ、と頭を打った。

 慌てて立ち上がるが、アゼルは両手を顔に当て床でプルプル震えている。

 彼はたまにこんな感じで奇声をあげて、おかしくなる。
 初めはびっくりしたが、これは発作らしい。ちょっとすると収まるのだ。



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