本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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終章 本日のディナーは勇者さんです。

14※微

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「っく、ぅ……ッ」


 一瞬の衝撃にうめき声が漏れる。
 久しぶりに感じる尖った痛み。いつもより早急で激しい吸血。

 アゼルは肌に開けた二つの穴から瞬時に溢れた血液を、余すことなく丁寧に食らう。
 凶暴に啜り、味わい、嚥下される。

 ゴクリと飲み下されても足りない、もっとと甘えるように柔く噛みつかれた。

 初めての時ほど急速ではなくとも、貧血にならない絶妙な加減で喰らわれる。トクトクと湧き出す血をたっぷり吸われると、言葉通り殺されてしまいそうな感覚すらある。

 ……これが嬉しいんだから、俺ってやつも手の施しようがない。

 獣に噛まれて命の危険を感じないなんて、生物として狂わされてしまったようだ。愛情という狂気の世界。


「ふ、ぁ……あッ……」


 抜けていく血液の代わりに体内へ流れ込む熱い毒にビクンッ、と顎が痙攣し、僅かに上がった。

 これが俺を麻痺させる毒。
 食われることが心地いいなんて、狂った感覚を植えつける。

 流れ込んだ毒は俺が鼓動を高鳴らせるほど早く全身を駆け巡り、期待に打ち震える体をどんどんと快楽を欲するように煽っていく。


「は、アゼル……んっ……」

「もっと……」


 無意識に身をよじると、シーツと首の隙間に手を入れられて首を引き寄せられた。
 もう片方の手が服の裾を手首で押し上げながら、火照りだす肌を優しくなでる。


「っ……ぁ…ンン…っ」


 ビクッと筋肉が震え、アゼルの柔らかい髪をくしゃりと握ってしまった。

 それでも止まらない熱い手のひらは、俺の胸元を指の間で挟み、皮膚を寄せるように動かして肉感を堪能する。

 一際キツく飲み口に吸いつかれ、官能的な唇が一度離れた。
 晒された傷口が熱く赤い粒が滲んで膜を張る。それがこぼれ落ちる前にチュク、とまた強く啜られた。


「あ…あっ……」


 首筋から伝染するようにゾクゾクと肌が粟立ち、下半身に甘い痺れを感じると、腰がしなって僅かに浮く。

 首根を支えていた手がそのまま弓なりの腰を支える。高熱を出した時のように頭がぼやけ、脳がジクジクと蕩けだす。


「ぅぁ、ぁ…あ……っ」


 尾てい骨を指先でなぞられ、背筋を這い上がるように強く指の第二関節で追いかけられた。ゾクゾク……ッと背筋が粟を走らせ、思わず哀れっぽい声が上がる。

 後ろから抱かれながら背中を愛撫されることに慣れている俺は、感度をあげられた状態だとそうされただけで酷く感じる。

 シーツに体を落ち着けることなく、都度と面白いように背骨を反らせた。


「ひ、やめ……っ背中、あ、っは……っ」

「なんだよ、そんなにイイのか?」

「んん……っ」


 妖艶な笑みを浮かべながら、ペロリと舌で唇を舐めるアゼル。

 たっぷりと俺の血を堪能したアゼルの口元はルージュを施したように赤く染まっていた。その姿が俺の官能を刺激し、興奮から呼吸が荒くなる。

 普段はあんなに初なのに、どうしてこういう時は無駄にやらしい顔をするんだ。

 頭の中が熱でぼやけていく。アゼルの手は、そんな俺を乱し、高めていく。




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