上 下
180 / 901
終章 本日のディナーは勇者さんです。

08(sideアゼル)

しおりを挟む


 ククク。シャルが好きでい続けてくれる理由のための努力は厭わねぇ。
 桃だって農家の常連になってるぞ。

 もっともっと好かれてぇんだ。

 シャルはかわいいから奪われるかもしれないし、引く手数多だろうが。これを言うとリューオはちっともわかりやがらねぇし、ガド以外は誰に言っても同意されねぇけどな。

 万が一にでも愛想を尽かされたくない。
 だから俺は尻尾を用意する。
 ドラゴンの尻尾を。

 尻尾のない俺よりある俺のほうが、同じ俺でも好かれると思う。故にだ。


「待っててくれ、シャル。俺は肉体改造するぜッ!」

「もう待てないんだ」

「待てないそうだぜ」


 拳を握って盛り上がっていた俺は、影も形もなかったはずの本人降臨により、スムーズな立ち上がりでスッと腰をあげた。

 が、素早く退路にリューオが立ちはだかり、その隙を逃さないシャルに腕を掴まれ、当然シャルを振り解けるわけがない俺はなんとあっさり捕まってしまった。

 ちくしょう。いかにシャルのためなら頑張れるかを語りすぎた。
 なんだよこの最強の拘束具は。振り解けねぇだろうが。

 だが俺はまだドラゴンの尻尾を手に入れてない。一度言ったことをふにゃふにゃ曲げるのは格好悪い。格好悪い俺は見せたくない。

 苦悩する俺を尻目に、シャルは人の無様を愉快そうに笑う極悪非道な勇者へ親指を立て、グッと突き出す。


「リューオ、ありがとう。ユリスは研究所から帰って部屋で紅茶を飲むと言っていたぞ」

「ヘッいいってことよ。いつかの敵は今日の協力者。俺は行くぜェッ!」


 ──アイツ売りやがった俺をッ!

 闇の取引きにより意気揚々と駆けていくリューオの後ろ姿が憎らしく、俺はグルルル、と唸り声をあげた。

 しかしそんな俺の腕を掴んでいたシャルの手がスルリと滑り、俺の指に自分のそれを絡めて強めに繋がれる。

 思わず「うひぃ」と変な声がでた。

 普段は強引なタイプではないシャルだが、俺が引くとその距離を埋めに来るし、やると決めたらやるので躊躇しないのだ。
 俺はその真逆だと言っておく。察しろ。

 夕日ではない理由で赤らんだ頬のまま横目でチラリと伺うと、シャルは困り気味に眉を垂らし、上目がちにじっと俺を見つめた。いかんもうかわいい。


「アゼル、俺はそのままのお前が一番好きだ。それでも改造するのか?」

「やめる」


 やめよう。
 意地を張るのはよくねえ。イイじゃねえかふにゃふにゃの俺。言ったことは臨機応変に変えてこその柔軟性だろ。

 握られていた手をギュウッと強く握り返すと、シャルはふふふと柔らかく笑って俺の手を引き、のんびり歩き出した。かわいい。ふふふだってよ……かわいい。

 部屋を目指して城の上層階を歩くだけで、俺すこぶるゴキゲンだった。

 魔王と手を繋いでこんなに嬉しそうに歩く人間なんて、世界中探してもシャルくらいだ。

 俺を振り回すのもこうやって捕まえるのも、シャルにだけ許している。
 シャルにしかできない。

 シャルだけが俺の機嫌を簡単に操るが、それが嫌じゃないのだから、俺は感情の操作権までそっくり捧げる健気な男らしい。


「なんで肉体改造だったんだ?」

「んっ!? そ、それは……それはそれだろ。お前こそどうして俺以外の男にサンドされてたんだよ」

「うっ。そ、それはまぁ、おかわりの練習をしていただけだ」

「おかわりィ? あぁ、そろそろ腹が減る時間だな。肉か? 魚か? 桃がいいのか? 俺も腹が減って仕方ねぇから全部用意させるか。他に食いたいもんがあったらなんでも頼んでいいぜ。俺は優しい魔王だからなんだって振る舞うんだ」


 最大限の〝お前の好きなものを好きなだけ食べさせてやるから一緒にディナーにしようぜ〟を告げると、シャルは少し頬を赤くした。夕日のせいか?

 城の中を二人でこうやって歩くのは、久しぶりだ。
 本当は今すぐ抱きついてだっこちゃん状態で歩きたいが、勢いで別居してたからタイミングも逃したし照れくさいんだよ。

 まぁ手をつなぐのも悪くねぇぜ。




しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

処理中です...