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終章 本日のディナーは勇者さんです。

05(sideアゼル)

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「──肉体改造してくるからしばらく別居だからなあああああああああッ!」

「あッアゼル!?」


 俺は午後の休憩時間が暇だったので、別に理由はねぇけど仕方なく、しゃーなし暇潰しで愛するシャルに会いに来た。

 なのに扉を開けると、シャルがなんだかふしだらなことになっていた。

 なんてこったい。

 俺は混乱のあまり、勢いのままシャルの部屋を飛び出した。

 同じように好きな子が男を足蹴にしてイチャこいてる光景を目の当たりにして叫んだリューオが悔し涙を流しながら走っているが、それはこの際どうでもいい。俺だって似たような顔をしている。

 ──クソッ! なんでだシャル!? なんでサンドイッチの具になってやがるッ!

 ──俺に犬耳がないからか! 俺にドラゴンの尾がないからか! 動物と爬虫類が好きだもんなッ!

 ──俺だって……俺だって全身獣にならなれるってのに、パンの役目を与えてくれねぇのはあれはズルいだろッ!?

 羨ましさで歯を食いしめながら、自分にケモ耳形態がないことを悔いる。
 諦めねぇ。お前に愛されるためなら、俺は肉体改造をする。ほんのちょっと待ってろ。

 しかし今はとにもかくにも別居だと叫んだので、一直線に自分の部屋に入り込み、部屋の隅で膝を抱えることにした。

 バターンッ! と扉を壊さない様に閉めて自室の隅っこに悔しさをぶつける。若干力が入って扉にヒビが入ったが気にしない。

 最近夜はシャルの部屋で一緒に寝ているから俺の部屋にはあまり帰ってきてなかった。俺の部屋は馬鹿広いから余計哀愁が漂う。

 寂しい。すでに寂しい。もう無理だ。
 なんで別居なんだ? いや同じ城に住んでるから別居できてねぇけどもう辛い。毎秒辛い。しばらくっていつまでだよ俺。五秒ぐらいか? 長ぇな。

 ウンウン唸りながら膝を抱えて、頭からきのこでも生えそうなほどジメッと周りの湿度を上げる。


「ううううおおおお恥ずかしさのあまり若干素っ気ないのが嫌だったのか? 俺は誰よりもシャルを想っているんだぜ。すっげぇ大事にしてるつもりだ。でもあん時俺が追いかけて告白してからシャルは全身全霊で愛してるオーラを振りまいてくるようになって日々ムラムラを抑えるのに必死なんだ。自分の本能と戦ってんだ。あぁくそかわいい。俺のシャルがかわいいんだ。世界よ聞いてくれ。かわいいんだよ。かわいいんだよッ!」


 ドンッドンッと途中から床を叩きながら、世界に向かってシャルのかわいさとその弊害を熱弁する。
 そうなんだよ。俺はすげえおかしいんだ、聞いてくれ。

 ムラムラするんだ。

 元々シャルを見ていると俺の暴走スイッチがうずうずしていたのに、最近はあの一件からツンが抑えられて倍増したデレが止まらない。

 気づいてるのかわからないが浮かれてやがるシャルが俺を見るだけで好きだってオーラを垂れ流すから全然ダメだ。

 表情筋をゆるゆるにして「アゼル」って名前を呼ばれると、もうなんか手が勝手に抱きしめちまう。

 悲鳴をあげなくなっただけ褒めてほしい。シャルに慣れてなかった頃の俺なら、そんな風に呼ばれただけで転げまわり奇声を発し逃げていた。

 もう全てが尊い。
 尊さで毎日オーバーキルだ。
 あのな、馬鹿げたことを本気で思ったんだが笑顔に攻撃力があるんだ。本当だぜ。

 そんなシャルに無か最大かと言うタイプの俺は我慢が効かないので、ドキドキしすぎて一日中抱き潰したくなる。

 だがしかし、恩人とはまた違った意味で俺はシャルを二度と離さないと決めたわけだ。そんなケダモノ行為をしたらドン引きして避けられるかもしれない。

 だから俺にしてはよく考えた。
 歯止めが効かなくならないよう性欲を抑えるために、ムラムラ防止で吸血もしてない。

 舐めるなよ? 吸血中のシャルを。シャルにするまで気がつかなかったが、吸血ってエロいんだよ。猥褻行為だ。
 その上毒まで回ってみろ。詳細は省くが死ぬ。シャルが死ぬ。俺のムラムラで死ぬ。結果的に俺も死ぬ。

 ユラリと立ち上がり、窓に近づく。

 性欲強い? だって仕方ねぇだろ。
 俺って百年以上生きてるけど──


「──あいつとするまで童貞でしたああああああああああああッ!」

「あなた様はどこまで残念を極めるおつもりなのですかッ!?」


 バァアアンッ! と窓を開いて叫ぶと、真下の部屋に住んでいるライゼンが床ドンに物申しに来ていたのかバァァアンッ! と俺の部屋の扉を開けて叫んだ。

 どうやら口を塞ぎに来たらしい。「これ以上民衆にポンコツ化を広めないでくださいッ!」とも叫ばれる。

 うるせぇ童貞でなにが悪ィッ! こちとら魔境住みだったんだぞオラァッ! 百年以上貫いたおかげで魔法使いどころか立派な魔王様だぜかかってこいよッ!

 涙目で八つ当たり気味にライゼンに殴りかかりそのままガチバトルに発展させる俺は、「恋愛上級者なんて嫌いだ!」と叫びつつ、犬耳とドラゴン尻尾の獲得方法をどうにか必死に考えることにした。




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