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終章 本日のディナーは勇者さんです。

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「……ふ」


 ──トン、とベッドに押し倒したガドの身体に馬乗りになると、これからすることを思い、羞恥からほのかに頬が熱くなった。

 硬い腹筋に座るようにそっと尻を乗せると、ガドの体温が伝わって緊張が増す。

 ゴクリと喉を鳴らし、俺はキメ顔を作ってそのままガドの手を掴み、ドキドキと高鳴る自分の胸に彼の手を触れさせた。


「今夜は寝かさないぞ……? じっくり朝まで……俺に触れていてほしい」

「シャァルゥ~。お前腰とか手足細いのにおっぱいは柔らけぇし厚みあるしエロいなァ。弾力やべェ~」

「こら、おっぱいじゃない。胸筋だ」


 神妙な表情で下からモミモミと両手で俺の胸を揉み始めたガドに、ふむと頷いて冷静にツッコミを入れる。評論家のような顔をやめろ。

 もちろん浮気ではないからな?
 ガドをアゼル役にして誘惑の練習をしているんだが、相手がフリーダム過ぎるのだ。

 せっかくの俺の出来そうな誘惑を考えてユリス先生に見てもらっているのに、これじゃまったく誘惑に見えない。俺とガドがいつも通り戯れているだけである。

 俺の地力を見定めるべくベッドの横で俺たちを眺めていたユリスは、うーんと腕を組んで、頭が痛そうに眉を顰めた。


「あのさ、上に乗っておっぱい触らせるのがお前の精いっぱいの誘惑なの?」

「胸筋だな」

「押し倒してこのあとどうするんだよ。まさかそれで一発ノックアウトできるなんて思ってないだろうね?」

「このあとか? 抱いてもらう」

「なにそのバカの一つ覚え! これじゃ一回だと物足りないってのが伝わってないしなんにも変わらないでしょ! 一回ヤッてまたぐっすり寝られるよアンポンタン!」

「!? こっ、今夜は寝かせないって言ったじゃないか!」

「お前がね!?」


 信じらんない! とばかりに容赦なく背中に蹴りを入れられ、俺はあえなくガドの上にペションと倒れ込む。

 倒れ込まれても尚のほほんと胸を揉み続けるガドは、余程俺の胸筋が気に入ったみたいだ。アゼルも胸を触るのが好きなのだから、このぐらい求めてくれればいいんだが。


「いーい!? 確実に夜戦に持ち込める初手のパンチと、一回戦後即時回復させるドエロいおかわりが大事なんだよ!?」

「だ、だが俺にはパンチのあるセリフや寝技が思い浮かばなくてだな……」

「そんなの『奥が痒くて眠れないから魔王様のコレでいっぱいこすって♡』ぐらい言えばいいじゃんこの淫乱ネズミ! 中イキまで開発済みのくせに今更ぶってんのなら承知しないからねっ!」

「そんっ、でもその、疲れてたらかわいそうじゃないか。それにほら、俺の身体は意外とよくないのかもしれない」


 耳の痛い正論にむぐぐと言い淀んだが、どうにか言い返す。

 だって俺の身体は硬いし、大胆な押し売りをできるくらい魅力的ではない。
 リューオもかわいい男じゃないと面白くないと言っていただろう?

 しかし筋肉質で背も高い俺は、リューオのようなムキムキの憧れ筋肉でもない。男から見てカッコイイわけでもガドのように背が高いわけでも、ライゼンさんのように中性的な美人でもない。

 中途半端な普通の男である俺には取り立てて武器がないのだ。
 それでもアゼルは俺を選んでくれた。
 そんなアゼルに、何度も抱いてくれと強いるのは気が引ける。

 誘いにノってくれるならまだしも、一回終わったところにもっともっととおかわりを要求する自信はないな……。

 愛されている自信はあるが、それとこれとは別なのだ。だからこそしたい時にしてほしいと言うか、したくなってほしいと言うか、なんというか。

 頼んで仕方なくじゃなくて、俺に自然と欲情して足りないと求めてほしい、とか。
 ……流石に恥ずかしいか。俺は乙女くさいのかもしれない。




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