173 / 901
終章 本日のディナーは勇者さんです。
01
しおりを挟む真・勇者襲来事件から、早一ヶ月。
この日の俺は自室で腕を組み、ガドとユリスと輪になって頭を悩ませていた。
「アゼルの様子がおかしい」
「魔王はいつもシャルのこととなるとおかしいぜ」
「なに言ってんの? 魔王様はいつだって完璧だよ。魔王様をおかしいと思うお前がおかしいに決まってるでしょ、斑ネズミ」
「俺はそんなにハムスターなのか……?」
二人から真逆のツッコミを貰いむむむと悩みが加速する。ハムスターの称号はガドに譲ったはずなのに、また返り咲いてしまった。
無邪気な銀色の竜人であるガドは、いつものように愉快そうな顔つきで悩む俺の頬をツンツンつつく。
魔界の海街・スウェンマリナの魔導具研究所で働いていたはずのユリスは、一週間前に栄転して、本部である魔王城敷地内の研究所に配属されたのだ。
今は魔王城に居を構えているぞ。
貴族であり海軍長官の息子であるユリスなので、身元はしっかりしているからな。
ちなみに、魔王城の一員となったユリス。
滞在三日でリューオに惚れられ、現在進行形で追い掛け回されていたりする。
リューオはかの有名なショタコンさんだったみたいで「ツンデレ美少年キタァッ! おいシャル! これが俺の求める萌えるツンデレだよ!」とバシバシ背中を叩いてきた。
……アゼルのツンデレだって、かわいいと思う。
アゼルが萌えないツンデレみたいでなんとなく張り合ってしまったのも記憶に新しい。
魔王城は強い魔族の仕事である軍人や官僚が多いので基本的に男ばかりだが、アゼルは一部の女従魔や城下の女性には人気なんだぞ。
コミュニケーション氷河期からコミュニケーション頑張る期に入ったアゼルは、親しみやすさがアップしているんだ。
現在は恐れられるだけではなく、きちんと慕われている。
女っ気がないから皆が二の足踏んでいるのだが。踏み込まれても困る。
じゃなくて。
冒頭でも言ったが、そんなアゼルの様子が最近おかしいわけだ。
まず、やたらと触れたがる。
まぁ付き合い始めてからもそうだった。それが少し度を越して、一緒にいる時は挨拶のごとく抱きしめてくるぐらいだな。
歩きにくいと言うと横抱きにされるから背中に貼り付けている。
次に、吸血しない。
以前は一日一度くらいの頻度で、毒がまわりきらない程度に少しずつ吸ったり舐めたりしていたのに、どうしてか近頃は一滴も飲まない。
そのくせたまに凄く物欲しそうに首筋を眺めているから、俺の血が不味くなったり飽きたわけではないと思う。しかし吸血しない理由はよくわからない。
そして最後。これが俺としては一番の問題なんだが……。
「一回したらすぐ寝られる」
「「あぁ~……」」
見事ユニゾンされた。
最初の二つでは半信半疑だったユリスたちもようやく深刻だとわかってくれたようで、俺と同じく腕を組んで悩み始める。そうだろうとも。
知る人ぞ知ることだが、アゼルは初めての夜に朝日が昇りそうなほど何度も俺を抱いていたくらいには、底尽きない体力と性欲を持っている。
二度目以降も俺の身体を好きなように開発して変えていくのが面白いようで、一度すると何度も求めてくれた。
毎日するわけじゃないが、濃い。始めると歯止めが効かないのだろう。
そんな男が一回しただけでもう寝ると言い出して眠ってしまうなんて、信じられるか?
それも俺に背を向けてなにやら苦悶しながら丸くなってしまうのだ。いつも眠る時は抱きしめてくれるのに。
こうもあからさまに矛盾した行動を取られると、流石におかしい。
俺に対する普段の態度と夜も魔王であることを知っている二人は、確信を持つ俺の言葉に、ますます首を傾げた。
51
お気に入りに追加
2,666
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる