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三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。
30(sideリューオ)
しおりを挟む王都にやってきた俺は面倒見のいい冒険者団体のマスターにつれられ、神殿でスキルの適正を見てから仕事を進めることになった。
そして初めて、ステータスなんてゲームのようなものがみられることを知ったのだ。
──俺がこの世界に呼ばれた真実を。
職業、勇者。
それは未だ人間国に魔物を撒き散らし害をなす魔王を討伐する資質を持ち、高難易度の召喚魔法を使って異世界から呼び出した人間を指す。
頭が理解できない間にめまぐるしく周囲が騒ぎたて、気がついたら目の前にこの国の王が跪いていた。
一国の王がだぜ? この世界では身元もわからないこの俺に、だ。
『今まで貴殿を見つけられなくて、申し訳ない。真の勇者よ、どうか話を聞いてほしい』
跪く王は語りだした。
八年前、召喚魔法で勇者を呼んだこと。
魔法陣に現れたのは別人で、神殿に行くまでわからなかったこと。
稀に同じ座標にいた人間が巻き込まれ、片方がはじき出されてしまうこと。
そして弾き出されたのは、本物の勇者らしいこの俺だったということを。
俺は震えながらも頭をどうにか整理して、その偽物だとわかったもう一人はどうしているのか尋ねた。
巻き込まれたのなら、俺と同じように慣れない世界で苦労しているのかもしれないと思ったからだ。
だが、王様は暗い顔で尚語る。
その片割れは自分が真に勇者だと言い、召喚のミスを盾に勇者として祭り上げさせ、横暴な振る舞いを始めたのだと言った。
勇者であることを傘に着て贅を尽くし、城に引きこもっては傍若無人に振る舞う。
他人の功績を横取りして、民には次期王なのでは? とまで勝手な噂が広まったと。
『我らも巻き込んでしまった負い目があって、彼を止めることはできなかった……だが、真の勇者は別にいるとわかっていた故、せめて民にはバレぬよう先代勇者の名を語らせて隠していたのだ。あの偽物の勇者……シャルのこの真実は、我ら王族と貴族たち城の者しか知らぬ。民は騙されているのだ』
王は涙ながらに言い終わると、悔しさを滲ませ拳を握った。
負い目につけ込まれて、いいようにされてきた不甲斐ない自分が恥ずかしいとまで言って、俺に謝罪する。
そんな姿を見て、俺はその偽勇者に憎しみが湧き出てたまらなかった。
俺が不安で押しつぶされそうになりながらも、懸命に自己を保つために生きた八年。
その間俺の代わりに勇者だともてはやされて、好き勝手に自由を謳歌していたクズ野郎。
その大罪人──シャルは「俺一人で魔王なんて倒せる」と魔界に出て行ったきり、帰ってこないという。
王は死んだのだろうと言うが、もし生きていたら恐ろしいと肩を震わせる。
勇者にしか扱えない聖なる剣でしか、魔王には致命傷が与えられないとされているらしい。それを持てない偽物が生かされているとは思えない。
俺は決心した。
『王、顔を上げてくれ。俺は勇者として魔王を倒す。二度とあんたにこんな思いさせないよう、憎いシャルを殺すことも厭わねェ。一月で準備しよう……俺は魔界へ旅立つぜ』
人間国へ魔物をけしかけ殺戮を楽しむ魔王も、勇者という肩書きを振りかざして俺に成り代わった偽物も、俺がこの手で切り裂く。
──そう誓ったのに。
どうして……悪逆非道な大罪人が、命惜しさに取り入ったはずの魔王を思って、音もなく涙するのか。
俺にはこの男がわからなくなった。
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