上 下
146 / 901
三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。

17

しおりを挟む


 そんな俺を見て、アゼルはとすん、と俺の頭に手を置いた。

 それからなでているつもりなのか、パソコンのマウスを動かすくらいのかすかな動きを見せる頭上の手。
 そのうち脳天をクリックされそうだ。


「お、覚えてなくてもいいんだぜ。俺があれで救われたのは絶対で、だからこそお前が俺を殺しにくるのを待っていたんだ。……初めから、俺は負けたことを理由に捕まえようって思っていた。うまく言えねぇから、その……血のためだって言ったけど、本当は、あの時みたいにそばにいてほしかっただけだ」


 俺は頭上の重みの心地よさに目を細めて、俺を飼ってくれた理由を話すアゼルを優しく見守る。

 そういうことの経緯を話してもらうのは、初めてだ。
 俺は本気で美味しいご飯のために飼われたと思っていたから、本当は今、内心安堵している。

 血だって俺の一部だが、それだけだと他の異世界人を好きになるかもしれない。そんな不安が奥底にないわけじゃなかった。

 アゼルは俺の不安を知らないはずなのに、俺は安心を与えられて胸がトクンと高鳴る。


「そんな俺は、ずるいやつだ。しかも尊ぶべき恩義だったのが……お前と関わるうちに、日に日に一人の人として、惹かれてるのがわかってた。独占欲が、あったんだ。でも……お、俺は恋をしたのがはじめて、だったから、変わった感情の名前が、すぐわかんなかったんだ……お前に全部踏み込ませて、言わせたのは、カッコ悪ぃぜ。俺はやっぱ、こういうの下手くそだ」

「ん……俺だって、男に恋するって発想がなかったから、あんなに触れ合っていたのに気がつかなかった。冷静になったら、気がある男じゃないとあんなことさせないな……カッコ悪い同士でいいんじゃないか?」

「お前が神か……」


 なでていた手が瞬時にピタリと合わされ、真顔で拝まれた。俺は神ではなく不甲斐ないがお前の恋人だ。


「……ん」

「っ」


 拝んでいるアゼルの合わされた手に、そっと自分の手を這わせる。
 そのままそれをなでてじっと見つめると、アゼルは顔をそらしたが、目線はこちらを向いていた。

 その目と視線を絡め、フリーのほうの手で人差し指を自分の唇に当て、薄く目を閉じる。この誘惑はわかりやすくて、アゼルにも伝わったようだ。


「ン」


 手を捕まれ、そっと触れるだけのキスを落とされた。

 少し離れてから、またすぐに下唇を食まれる。何度も触れ合わせ、首の角度を変えてキスをした。

 じっと目を合わせながら、真っ赤な顔をお互いに晒し、ちゅ、ちゅとじゃれるようなキス。くすぐったくて愛しくて、楽しい。


「ふ、っ……そろそろ行かなければ、魔王城につくのは深夜になるな」

「……俺が本気で走るから、も、もうちょっとコレ、させやがれ」

「お前とならいくらでも」


 クスリと笑い合って、額を擦り合わせるようにコツンと合わせて今度は深く唇を重ねる。

 アゼルはキスが好きみたいだ。
 俺もアゼルとするなら好きだ。おそろいだな。

 お前の大切な思い出。それを覚えていなくても、その過去があるから今の俺たちがいて、こうして触れ合えるのだ。

 そんな奇跡と浮かれた気持ちを、まずは確かめ合おうか。

 ──その後。

 俺たちがニ日ぶりの魔王城に帰ったのは深夜だったことと、そのまま同じベッドで寝ることになったことをお知らせするので、是非察してほしい。

 くっ……! ひたすら唇を吸われてキスで気持ちよくなるように、一晩口内を隅々まで舐め回された……!

 どんどん様々な性感帯を敏感に開発されている気がして、若干危機感を感じた俺なのであった。




しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...