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三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。
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しおりを挟むそうして進む魔王と勇者の初デート。
浮かれた魔王節はその次に行った雑貨屋でも爆発し、危うく小売店まるごと買い占められる危機に瀕したりだ。
しかし「やったら海軍に就職して全額払う」と言うと、涙目で嫌だと抱きしめられ事なきを得た。
ん? 得たのか……? 得たことにしよう。
様々な店やスポットを回って笑い合ううちに、繋いでいた手は湿り気を薄れさせた。けれど温かいままで心地いい。
無人サークルとモーセ現象も気にならなくなったな。
「おお、広場で芝居をやっているぞ。見に行こう」
「仕方ねぇな」
「アゼル? 視線は俺じゃなくて、前に向けるんだ」
穏やかなデートは、魔界に来て今までで一番幸せな時間だ。ずっとこうして歩いていたいと、強く思った。
街散策を満喫した俺たちは、今は二人で海の見えるカフェに入り昼食を取っている。
「本当にそれだけでいいのか?」
「今日はずっと胸が一杯で飯が入らない……」
頬を緩ませぽや~っとしながら肘をつき、なにやらトリップしているアゼルは、ココナッツジュースのストローを上の空でカラカラ回す。
俺は大きな鯛のような焼き魚をモグモグと咀嚼しながら、そんなアゼルにちょっとだけ悪戯をしたくなった。
俺といるのに上の空なのはいけないな。恋人らしくこっちを見てをしなければ。
いつかのようにそっと手を差し出してテーブルに頬肘をつく。
「食欲がないのは心配だ。滋養強壮ランチに俺の血でも、如何かな?」
「ふぐっ」
ゴンッ。
冗談とわかるようにおどけて言った言葉に、アゼルはにやけた口元がパカッと開いてテーブルへ頭を強かに打ち付けた。打ち付けながらもガシッと手は掴んでいた。
「あはは、冗談だ。実はな、ナイショだけど俺は……すごく浮かれている。イチャイチャというものをしたかったんだ」
「やだもうなにこいつ滅茶苦茶愛してくるじゃねぇか俺より断然カッコいい好きだァ……!」
「うん? なにを言う。俺のアゼルは誰よりカッコいい、俺のほうがきっともっと大好きだ」
「控えめに言って命日」
甘いことを言い合うのが楽しくて照れながら好きだと言うと、アゼルはくうっと唇を噛み眉を寄せて震えだす。
「クッ……笑顔が眩しすぎて常に視界が綺麗……もう崇め奉るしかなくね……ここに神殿を建てよう……こんなの改宗不可避だろ? 俺無宗教だけど……かわいすぎてしんどいし尊い……無理オブ無理……教祖様に財産も余命も貢ぐ系魔王になる……はぁ~今日も勇者に生かされてる~……」
「困った。結局俺をどうしたいのか、ほとんど良くわからない」
「語彙力のないガチ勢に課金されてる崇拝対象との温度差すら愛おしくて毎秒尊さで殴られてる気分だぜ」
「殴ってないぞ? そしていつまで手をスリスリするんだ」
すごい勢いでスリスリしながらブツブツと何事か呟かれるが、どれも頭に入ってこなかった。
どうしてかわいいと思ってくれているのにしんどいんだろう。無理なのに手を触るのか? あと貢ぐのはやめてくれ。それなら代わりに仕事とかをくれ。
アゼルは触れていた俺の手にちゅっとキスを落として、感極まったように頬を擦り寄せる。
俺は途端に赤くなったが、浮かれモードのアゼルがかわいいなと思って好きにさせた。
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