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三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。
02
しおりを挟む気だるさも空腹も気にならずに見つめていると、アゼルは朝日が眩しいようで「うぅ……」と少し唸った。
「ん」
「う、……ぅ……」
そっと手で影を作ってあげるが、モゾモゾと身じろいでうっすらと開いたまぶたからオニキスの瞳が覗く。
俺はニコリと笑いかける。
「おはよう、アゼル」
「…………しゃる?」
「シャルだ」
「……な、んで、……え?」
「なんでというと、昨日一緒に寝たからだぞ。……いろいろした」
「いろいろ……~~~~ッ!?!?」
バフンッ!
「んッ?」
「バカヤロウッッ!! 俺に朝チュンはまだ早いんだよッッ!!」
──朝チュン?
俺の笑顔に対して、なぜかアゼルは叫ぶと同時に耳まで赤くなり、掛け布団を奪いつつ、部屋の影にドドドドドッ! と跳んで逃げて行った。
あまりにも予想外の行動に、キョトンと小首をかしげる俺。
かすれた喉と軋む節々や違和感しかない下半身を気にしながらもベッドの真ん中にペタンと座り、部屋のすみに逃げたアゼルを観察する。
ううううがうかうと、物凄く頭を抱えて悶絶しているようだ。
起床そうそうに持病の発作か。
見えている皮膚が全部真っ赤に茹だったアゼルだが、それが悩ましいようにも見えて、一抹の不安がよぎった。
──もしかして……後悔しているのか?
一夜の過ちというのはままあることだ。とはいえ最中も断片的にだが、その断片全てのアゼルが好きだ好きだと言っていた。
だから両想いだと思い浮かれてお前の寝顔を愛でていたのに、過ちなんて寂しい。
自然に眉がしょもりと下がった。
ベッドの上でキュッと肩をまるくする。
俺の記憶じゃ、気持ちよすぎてだいぶうろだったがアゼルはイエスな返事をしてくれた気がするんだが……もし、そうだったら。
「アゼル……どうして逃げてしまうんだ……?」
「! にッ逃げてねぇッ! 戦略的、うぉ、うぉぉぉッ!」
ついザラついた声で情けない言葉を吐くと、アゼルはピャッ! と飛び上がり、すごい速さでガタガタと家具を倒しながら戻ってきた。
アゼル、痛くないのか?
すねに思いっきりテーブルが、あぁいや、テーブルが欠けている。
アゼルの皮膚よりテーブルのほうが脆いらしい。あんなにもっちりとした肌をしているのに、防御力補正がすごい。
そうこうするうちそばにやってきたアゼルは、「シャルッ! す、好きだぁぁぁあッ!」と叫び、すごい速さで椅子を蹴飛ばしてまたすみっこに隠れる。……一夜の過ちじゃなかったみたいだ。
「俺も好きだー!」
「あぁぁぁぁッ!」
嬉しくなって同じ言葉を返すと、アゼルはバコンッッ!! と欠けたテーブルを完全に木っ端にした。あとで一緒に修理しよう。
朝チュン。いいものだ。
定期的にしたいな。
初めての朝チュンは、なんとも幸福に満ちたものであった。
余談だが、この日のアゼルはほとんど一日中部屋の影に隠れていた。
それだけ照れているのに生理現象以外で一定以上俺のそばから離れなかったから、様子を見に来たワドラーがまた呆れていた。
ワドラーは父親のような面持ちになりつつも俺たちを祝福してくれたので、これも含めてとってもハッピーである。
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