本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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番外編① 三色の子ブタ【童話パロディ】

04

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 【ケース3・キリユ】


 二匹とは別の方向へ向かった三男のキリユは、景観の美しい泉のほとりに家を建てることにしました。とにかくのんびりと暮らしたかったのです。


「俺は気ままで平和で愉快な日々が大好きなのさぁ! だから頑丈なレンガで家を建てるんだぜっ」


 ウンショ、コラショ。
 ウンショ、コラショ。

 重たいレンガを運ぶのは骨が折れましたが、三匹の中で一番臆病で用心深いキリユですので事故もなく、キチンとレンガの家を建てました。

 匠の技が光るのは、大きなお鍋も難なく入る立派な暖炉。サンタクロースも出入り楽々な煙突付きです。


「なんということでしょう、山ほどのレンガがなかなかの家にっ! マザーの言いつけはこれで守ったぜ! 外で壁当てでもして遊ぼうかな~!」


 自画自賛できる出来栄えに、キリユはすっかりご満悦。晩ご飯はお魚だぜ! なんて浮かれ気味に釣竿とボールを持って、外へ出ようとしました。

 しかし、どうでしょう。
 突然ゴンゴンッ! と乱暴なノックがしたあと、涙目で怯えきったアリオとオルガが家の中へ飛び込んできたのです。


「おいっおいっそんなに慌ててどうしたんだよう? まさかよそのブタに尾っぽでもかじられたのかっ?」

「キリユッ! 緊急事態だッ! 狼を連れた人間が来たんだぜッ!」

「俺たちの家はあっという間に全壊だぜ!」

「なんだってーッ!?」


 事情を聞いたキリユはやっぱり目の玉を大きく見開き、ピョンと驚愕で跳ねました。三つ子の子ブタはリアクションまで似ているようです。

 三匹揃って大変だ! 大変だ! とブウブウ鳴きながらてんてこ舞いになっていると、はかったようにコンコン、とドアがノックされました。


「「「来た────ッ!!」」」

「こんにちは。私、旅人のシャルです。こっちは黒狼のアゼル」

「「「魔女宅だ────ッ!!」」」

「ん? ……ああ。ウィンガーディアムレビオーサ」

「「「ハリポタだ────ッ!!」」」


 そうじゃない! 誰も魔法使いのチョイスに騒いでいるわけじゃない!
「ごめんごめんこっちだった?」みたいなテンションでセリフを変えてもお前は立ち入り禁止だッ!

 三匹は見事な連携でドアに素早く貫木をかけると、全身全霊でドアを押さえ込みました。ここが最後の砦なのです。


「人間ッ! 厚切りのブタをデコボコな鉄板で焼き目をつけて、炎でカリッと焼き殺す小癪な生き物だぜッ!?」

「ポークステーキだな」

「人間! ブタを縄でギチギチに縛って濃厚な謎のタレで溺れさせた挙句、表面をこんがり炙った上で、手間隙かけてじっくり圧死させる慇懃無礼な生き物だぜ!」

「チャーシューだな」

「人間っ! 細切れにしたブタを体が熱くなる悪魔の実で漬けた野菜と一緒にしこたま炒めて、卵と甘辛いタレで滅茶苦茶にする卑劣な生き物なんだぜっ!?」

「豚キムチだな」

「「「あんまりだぁぁぁぁぁ! どうしても美味しく頂いてやるってな悪意を感じるぜ!」」」

「いや、どうしても美味しくなるのがお前たちなだけなんだが……」


 うるさいうるさい! とにかく帰れ!

 困ったように呟く声に、三匹は一斉に「かーえーれッ! かーえーれッ!」と、騒ぎ立てました。

 人間はホトホト困り果てて話を聞いてほしいと懇願しています。それでも頑丈なレンガの家へ立てこもり、三匹は人間を中にいれてはあげませんでした。

 どうしたって美味しいのはブタの誇りですが、食べられるのはノーサンキュー。

 それが三匹の総意だったのです。


「シャル、リード離せ。煙突別の玄関から訪ねて、この人の話を聞かないアホブタ共に俺が話しをつけてきてやるぜ」

「ん? そうか。あれも玄関だったんだな……それじゃあ頼む。くれぐれも怪我をしないようにのぼるんだぞ」

「ふふん。誰に言ってやがる」

「「「!?」」」


 帰れコールにコブシとビブラートを利かせ始めた三匹の耳に、ドアの向こうから悪逆非道な狼ボイスが聞こえました。

 なんと、狼は飼い主を丸め込み、不法侵入を正当化したのです。
 リードから解き放たれた狼が子ブタの元へやってくるなんて悪夢でしかありません。

 三匹は弾かれたようにドアから離れると、各自が慌てて対策を練ります。それから急いで暖炉に火をくべて、水の入った大きな鍋をかけました。
 これで狼を釜茹でにするようです。


「茹でれるか!? いけるか!?」

「いけなきゃダメだぜ! あの狼を見ただろ!? 俺たちはペロリとやられちまう!」

「やめろーっ! 死にたくなーいっ!」

「落ち着け! どっかの本で煙突から侵入してくる狼の対処法は〝熱湯の入った鍋に落とす〟とあったんだぜ! 間違いないはずだッ!」

「「おお~」」

 バシャンッ!

「温い」

「「「ですよねーッ!!」」」


 当然のことながら狼が煙突に上り始めてから水を入れた鍋を火にかけても、沸点にすら到達するわけがないもので。

 足元が濡れた狼が不快そうにブルリと身を震わせ、暖炉の中からのっしりと侵入を果たしてしまいました。

 こうなってはさしもの三匹の子ブタとて、ブウブウと騒いでもいられません。

 参考にした物語では見事撃退できていた狼は、部屋のすみでガタガタと震える三匹を見下ろしているのです。
 できることはただ一つ。


「「「狼様人間様ご主人様どうぞなんなりとお申し付けください」」」


 ジャパニーズ・土下座だけでした。



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