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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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「どうしてだ? なにを謝る? 俺が不注意で罠にも気がつかなかったマヌケなのが悪いんだ。それなのにお前の手を煩わせて……不甲斐ないのは俺のほうだ……」


 受け入れるわけにはいかない謝罪を否定するために自分で罪を告白して、少し落ち込む。

 嘘偽りのない事実だ。
 人間国にいた頃はこんなヘマはしなかったし、ここに来てからも警戒心は持っていたつもりだった。

 しかしあの時の俺は、自分がこの国で一人だということを忘れていた。

 まさか恋しいという感情に浮かれていたのだろうか。……そうだろうな。

 恋は怖い。
 自覚した途端、アゼルのことしか考えられなかったのだ。

 好かれたいだとかどう見えているのかだとか捨てられたくないだとか、ずっとそばにいたいだとか。

 下心だらけの醜い愚か者だった。
 自業自得だろう?

 けれど馬鹿な俺が勝手な行動をして馬鹿な目に遭ったのに、お前だけはやっぱり俺を捨てなかったんだ。

 会いたいと思った途端助けに来たアゼルを見た時、俺は──驚きつつも、とても嬉しかった。最低過ぎる。


「……迷惑かけて、ごめんな」


 どんよりと自分に雲がかかってしまう。好きな人に迷惑をかけて喜んでいたなんて、クソ野郎だ。

 謝られることなんかあるもんか。

 卑下しているわけじゃなくてただ当たり前なだけだが、危険な状況に陥ろうとも、誰かの助けがあるかもしれないだなんて考えていない。

 助けてくれと叫ぶことは選択肢になく、気づいた誰かが来るまで耐えるという思考もなく、当然のように俺は一人で切り抜けようと踏ん張っていただけだ。

 それをお前、一人で戦うのが日常だった俺の常識をブチ壊して、たやすく救い出したんだぞ?

 恋こそすれ、謝られることなんかこれっぽっちもなかった。


「お前こそ、なに言ってんだ。俺がお前をここへ連れてきたんだ。履き違えるのはダメだ。俺が罪人だ。だって俺は……お、お前みたいな綺麗な生き物、誰しも欲しがるって、わかってたんだぜ。なのにみすみす盗られた、俺が馬鹿だろうが」

「そんな、買い被るんじゃない。自分でついて来た。選んでここにいる。俺なんて、お前に比べたらずっと汚い男だ」


 けれど、俺の言葉を理解できないと、至って真剣な眼差しが俺を見つめる。

 俺はわからず屋のアゼルに困って、スリ、とアゼルの頭に頬をすり寄せた。


「ぎゃ」

「俺にとってはお前のほうが、とびきり綺麗で魅力的なんだぞ……?」

「ヴッ」


 未だ赤い顔のまま落ち込む俺を気遣ってくれるアゼルに、いつもとはほんの少しだけ種類の違う愛を込めてそう告げる。

 あんまり優しくて格好いいから、少しくらい伝わればいいと思ったのだ。

 俺がお前のそういうところに救われ、そして恋をしていることに。

 うん、うん。
 そうだ。そうだとも。
 俺はまだ浮かれているのだとも。

 せっかく隣にいるならばこの機会を逃さないようめいっぱい頑張ってみようと、内心で拳を握ったわけである。

 自覚したなら、想いを伝えたい。

 それは当然だが、断られるのはともかく万が一にも嫌われたくはない。

 だから少しずつそういう気持ちがあるんだということを滲ませて反応を見ようとした、小癪な俺の臆病な作戦だ。


「ほ……頬、擦り……不意打ち……ッ」


 作戦なんだが……俺の言葉と行動に、アゼルは小さく唸って震え始めた。

 これはどうなんだ?
 嫌がっているのだろうか。アゼルの行動解読は難しすぎる。




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