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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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重いまぶたを開けて、俺はゆっくりと目を覚ました。
ふかふかとしたものと温かいものに包まれていて、その心地よさに覚醒しきれない頭がぼう、とする。
ここは、どこだろう。
わからないが、酷く安心する……ずっとここにいたい……。
「……っ……」
しかしすぐに意識を失う前の最後の記憶を思い出して、微睡みの中から強制的に引き上げられてしまった。
そうだ。俺は確か窮地に陥り怪我を負って、そして──……。
現状を知るために飛び起きようとしたが、うまく体が動かなかった。
どこにも痛みはない。
傷はどうやら完治しているようで、あれだけの血を流したのに以前のような倦怠感もなかった。
不思議と精神も穏やかだ。
にもかかわらず動けないのは、なぜか。
困惑しつつ首を動かし、俺を包む温かいものに視線をやる。するとすぐに犯人がわかって、俺は全身に熱が走りだすことを止められなかった。
「ぁっ、アゼル……っ」
「シャル、動くなよ。ワドラーの水の魔力で治癒して回復力を高め、疲労と貧血をやわらげてるけど、念のためだ。脆弱な人間は回復力まで貧弱だからな」
「く……」
見覚えのない柔らかなベッドに寝かされた俺を真横から抱きしめつつ腕に顔を寄せているアゼルが、いつも通りの仏頂面でキッと厳しい声を放つ。
(せ、接触感染のウイルスだ……!)
アゼルと触れていると、俺の体は熱くてたまらない。
視線をそこらにうろつかせて、どうにか隣の不健全な添い寝枕から一時的な戦略的撤退を試みる。
ベッドの位置が部屋のすみであることと天井から伸びた仕切り布があることとで、明るい部屋の中心から離されて少し薄暗い。
それでも顔が赤いのがバレてしまいそうで、変な汗が出た。
大人三人が寝ても窮屈にならないだろう広々とした質のいいベッド。
少しずつ理解した現状は、そのベッドで上半身裸のままアゼルに抱きしめられているらしい。なんてこった。
「う、ぅぅ……」
極限の緊張から無傷の健康体と平常な精神を取り戻した今、健全な男である俺は、彼に触れられると胸の高鳴りを抑えられない。
思い出そうと意識したわけでもなく、強制的に思い出させられてしまった。
──俺はアゼルに恋をしていると、自覚してしまったのだ。
これは紛れもない事実で、どうあがいてもなかったことにできない感情。
諦められない高望みだから脳が混乱し、どうやって好きになってもらえればいいのかと悩ましくなって街へ逃げだした。そのあとの失態ごと、しっかりと覚えている。
だがそれを受け入れたにしても、この状況はハードすぎるだろう。自分の心臓がうるさく騒いでいることが嫌でもわかった。
「シャ……シャル」
「うへぁぁ……」
くっ、変な声が出たぞ。
緊張で身を固くして身動きが取れないでいる俺をどう思ったのか、アゼルはよりいっそう腕に力を込めて伏せていた顔を上げる。
「……助けに行くのが遅くて、悪かった」
ハッとした。
慌てて視線を横へ向けると、アゼルは迂闊な俺の勝手な行動を怒っているのか、頬を赤らめていた。
まるで懺悔する罪人のように眉をたらして、少しも傷跡の残っていない俺の肩を痛々しそうになでながら謝るのだ。
それはおかしい。それをするのは俺で、絶対的にお前じゃない。
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