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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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 それからの日々は、訓練、勉強。

 言葉はもとの世界のモノにそのまま翻訳されるので困ることはなかったが、書くことはできないから覚えるのに手こずった。

 文字を覚えたら今度は世界のこと、国のこと、魔族のことを覚える。

 本当かどうかはわからない。
 居場所を作るために、教えられるがままを真実として飲み込んだ。

 慣れない剣で戦いの訓練をした。

 倒れて血を吐き死にかけても、魔法というのは便利なもので、すぐに綺麗になってまた剣を振るう。

 この国で勇者というのは、道具のように消耗される存在だった。

 魔力が空になり嘔吐しながら倒れるまで、魔法の訓練をした。

 頭が壊れそうなほど重く複雑な魔法陣のレシピを、数え切れないほど脳に焼きつけた。

 才能があるわけでも特別な能力があるわけでもないから、毎日毎日、ただ努力した。

 俺は働いた。
 必死に、居場所のために働いた。

 王政へ民衆の心を集めるべく、勅令と言われれば誰もが避ける凶暴な魔物を倒した。

 人間の他国との戦争にも最前線で駆けた。俺が狂いそうになりながら人間を殺し敵国を打ち取ると、領土が広がった。

 民衆は俺をこの国を守護する勇者様として、戦果を持ち帰ると歓声で迎えて
くれた。

 だけど城に戻ると、一人冷たい塔の中にいる。

 生活魔法以外を封じる結界術のかかった塔。食事は日に二回、扉の前に。

 見張りはいつも、俺を見ている。
 勇者は召喚獣だから、人ではないから、これは飼育だ。

 俺の知っている人間国の捕虜の牢。

 ふふ、笑えるだろう。
 そこにいたのは、俺だ。

 接触は城の者だけ。
 誰かと仲良くなって逃げ出さないように。外に出て知識をつけ、この国で一人で生きていけるようにさせないために。

 俺は一人で雑用をこなす。
 王様の敵を、討伐する雑用を。

 ケガをしても、病気になっても、殺されそうな窮地だって、繰り返し一人で耐えてきた。

 俺の体は異世界人だから劣化しなかったし、それは戦うことを前提としたからなのかはわからなくとも、その生活では好都合だった。

 頑張った、頑張った。

 歯を食いしばって、前を向いて、役に立てるように、見捨てられないように、ここで生きていてもいい理由を貰うために。

 もう……休みたかった。

 死にたいわけじゃなかったけれど、死んでもいいか、と思って魔界に来た。

 単身無理な雑用を命じられた時点で、この世界に俺がもういらないということはとっくに気がついている。

 必要だから呼ばれて、不必要だから捨てられただけ。

 遮二無二尽くして誰かそばにと願ったところで、便利に使われ消費される。

 結局、俺のそばには誰もいない。
 一人で戦いに来た。

 悪逆非道で残酷で、満場一致の世界の敵だと言われている彼と。

 全ての人間に恐怖を、侮蔑を、あらゆる悪意を向けられ、命を狙われ死を切望される寂しい男と。

 自分を殺しに来た脆弱な人間に怖がられないかと怯えて震え、嫌わないでと綺麗に泣いた、俺の知らない王様と。


『お、俺のそばにいろ!』

 ああ──会いたいな、今すぐ。


 死を感じるほどの疲労と痛みから駆け巡った、煤けた走馬灯。

 無音の世界が晴れた俺は、わざと自分の舌を食い千切らない程度に噛む。


「グッ……!」


 頭が痛みで飛び起きて、どうにか俺を横薙ぎに襲う屈強な腕を避けた。

 腕の痛みから復活した頭領の怒りで吊り上がった顔が見える。

 そうだ、そうだ。
 これが日常だった。

 俺が今、呑気に幸せを感じていられるのは、生きていられるのは、恋をしているのは、全部アイツのおかげだ。

 ──帰らないと。
 無理が祟ってガクガクと震える青ざめた体を叱責する。

 すると渇望した出口の鍵のかかった扉が、突然ドゴォォォンッ! と凄まじい音をたてて、壁ごと吹き飛んだ。




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