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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む想像が自覚としてストンと胸に落ちた時、意識の外で思いが溢れた。
溢れた言葉を耳にしたユリスはキッと目を吊り上げて、頬を真っ赤に染めたまま呆然とする俺をビシッ! と指さす。
「お前、やっぱり魔王様を狙う僕の敵だな!? くっ、ぬか喜びさせるなんて許さない! 敵に貸す部屋はないんだからね!」
「ぅあ……、うぅん……」
ユリスのキャンキャンと怒りに染まる声にハッとするが、図星なのですぐには否定できず言葉に詰まってしまった。
そんなつもりはなかったのに現実はそうだったと自覚したのだが、「今恋心を自覚したから今までのことは勘弁してくれ」と言ったところで、喧嘩を売っていると思われて終わりだ。
ユリスは俺を追い出す気で玄関の扉を指さしていて、争うよりもここは従うほうがいいと思った。
俺としても今は一人になって気持ちの整理をしたいから、ちょうどいいだろう。
こんなホワホワとした気持ちのまま夕食でアゼルに顔を合わせるのは、少し恥ずかしすぎる。
「フンッ! お前なんか家畜らしく野宿でもすればいいんだ! なんとも思ってないーみたいな顔でいたくせにやっぱり好きだったんだ! 僕をおちょくって!」
「う……ついさっきまで本当に、そんなつもりはなかったんだ。ごめんな……」
「お人好しかお前はっ! 許さないよ! ま、まぁでも……街に宿があるからダメ元で行ってみれば? 野宿は危ないからね!」
「優しいな、ありがとう。それじゃあ今夜は宿に泊まるので、明日の朝にまた来るな」
「へへーんそうでしょ嫌でしょ! 今謝って魔王様のことは諦めるって言えば、部屋を用意してあげるよ!」
「んん……それが……諦められ、ないから……俺は……どうしよう……考えたいから、とりあえず……行ってきます……」
バタン。扉を閉める。
「うんうん、素直に謝るのが一番。なんてったって魔族の街の宿に人間のお前が行っても、捕まって食われるか売り飛ばされて殺されるか、なんにせよ自殺行為……って、あれ?」
扉を閉めると、俺にはユリスの声が聞こえなくなる。
ドキドキとうるさい鼓動とぼうっとする頭を揺らして、夜の道を歩き出した。
◇ ◇ ◇
街の灯りのほうへよたよたと歩く。
足は次第に早まり、早足で逃げるように基地から遠のいていく。
ホゥホゥ、ギャアギャア。魔界の夜の森は恐ろしく、そして騒がしい。
そんな周囲の様子が気にもならないほど、俺の心は浮ついて落ち着かなかった。
──……俺は、アゼルに……恋を、していたのか……。
自覚したての想いを自分のものにするため、何度も反芻して胸の高鳴りを抑え込む。
いつからだろう?
同性愛がそれほどマイノリティではない魔界と違い、俺は現世出身のノーマルな異性愛者だ。
恋をしていると言われてもすんなりと納得して違和感がないくらい好意を抱いていたとは、俺はとても惚れっぽいのだろうか。
そんなに飢えていたのだろうか。
「いや……違う、な。言葉で説明できる理由なんて、ない……」
呟くそれがまさに事実で、余計にたまらない気分になった。
そばにいて会話をして触れ合って、それだけで俺はすっかり恋に落ちてしまったのだ。
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