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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟むアゼルが俺にいらないと言うことを思うと、その痛みは急速に増す。
「俺は……そのうち、飽きられるんだろうか。捨てられたらどうなるんだろう」
「はぁ? なに言ってんのさ。当然でしょ? 人間なんてゲテモノ食材か生き血要員でしかないんだし! まぁ魔王様はお優しいから、お前は殺さず逃がしてもらえるかもね。ふんっ!」
「……っ……」
誰に問いかけるでもない呟きへ予想外に返答があり、それが余計に俺の心をむき出しにさせた。
殺さず逃がしてもらえる。
戻る場所はなくとも、魔界に侵入した人間の処遇にしては優しすぎるものだ。
捕虜にされた家畜なら希望を見いだしても構わない待遇なのに、どういうわけか俺は〝捨てられたらアゼルに会えなくなる〟と考え、心臓が更に痛んでしまった。
黙り込む俺にユリスはフンッと鼻を鳴らし、機嫌よくぞんざいに手を振る。
「恋敵じゃないならどうでもいいよ。今後も魔王様に懸想なんてしないように! したら潰すからねっ!」
──っ……もう、ダメだ。
それに対して心底から我慢ならないと思っている時点で、俺はとっくに手遅れだった。
いや、冷静に考えれば気がつかなかったのがおかしいくらいだ。
胸の痛みに手を添えて震える唇で深呼吸をすると、頭の中にアイツと出会ってからの記憶が流れ始めてしまう。
ヒントはあった。
兆候もあった。
鈍いのは頭だけ。
アゼルが吸血のたびに肌に触れると、俺は性別や立場を忘れたまま甘やかな快感を共有していた。
ただ責任を取ると言う彼の言い分に従ったにしては、あまりにも甘美な時間ではないのか。
あの瞬間、もし毒がなければ?
あるがままの今の俺は?
そうだ。俺は女性が好きだ。男に触れられて嫌悪がないのは、相手がアゼルだからだろう?
毒に犯されていない健全な脳を持って、俺の心は、俺は、……アゼルに触れたい。キスだって嫌じゃない、嬉しい。
その先の……セックスも、想像してみて、たぶん……できる。いや、したい。愛されたい。触れ合いたいから、そうしたい。
ユリスの言葉を深く飲み込んで考えるほど、アゼルと共有していた時間が悲痛に軋んでいた胸をトクン、と高鳴らせる。
どうしよう。
俺は、アゼルに、欲情できる。
「……っは……」
カァァァ……! と自分の頬が赤くなっていくのがわかった。
人間が魔王に懸想するなんて身の程知らずだと論じているユリスは、俺の変化に気づいていない
性的な触れ合いを許容したり、離れることが寂しくてたまらなくなったりなんて、ただの友人に思うだろうか。
これまでは思ったことがない。
過去の友人と比べてみたって、愛はあっても肌を重ねたいだなんて思えもしない。そういうことは……恋人とすることだ。
では仮に、アゼルが恋人を作ってそういうことをする。俺をかわいいと言った口で、他の誰かをかわいがる。
肌に触れて、キスをして。……恋人同士なら、当たり前のことだ。
俺にしたように、その誰かにするのか。
あんな、身体中がとろけて存在全て飲み込まれそうな気持ちを、その誰かにお前は味わわせるのか。
「っ……いや、だ……」
想像しただけで、答えは泣き出しそうな声をあげて口腔から漏れ出た。
切なく、寂しく、行かないでと胸を締めつけるこの理由は。
あぁ──俺は魔王に、恋している。
俺は甘い名前を貰って……望んでアゼルのそばに、いたいのだ。
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