本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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「愛人じゃないってなら、お前は魔王様のなんなわけ? あの方にあんな顔させてる、そんなのってなに?」

「俺がアゼルのなに……か……俺は……」


 海色のユリスの瞳は、深海のような青みがかった濃黒の俺の瞳と似ているようで違う色をしている。

 その質問に、揺らめいたのは俺の瞳だ。逸らしそうになるのを耐えて、心を逡巡する。

 俺はなになんだろう。
 俺は──


「強いて言うなら……家畜、だな。俺はアイツの、生き餌だ」


 ──ただの食事だ。

 優しい主人が人間らしく振る舞うことを許しただけの、大切に飼われた美味しい食事。

 もちろんそれを悪く思ってはいない。
 いい意味で、いや、皮肉じゃないが兎に角、アゼルは俺を大事にしてくれる。名を呼んでそばに置いてくれる。言葉をかわして、笑い合える。

 だけどなにかと問われると、そういう間柄の、俺は家畜だ。

 そう誘われて檻にいた。皮肉ではないが、他の名前はまだつけてもらっていない。

 それに不満はないのだ。
 本当によくしてくれている。必要とされている。本当に、幸せだ。

 けれどユリスは俺の言い分を聞いて、床をドンッと強く踏み鳴らした。


「ふぅん? 家畜ね、いいじゃん。それじゃあ魔王様の恋人になろうって気はないんだね? 魔王様を愛していないんだね? あの方に触れたいとかキスしたいとかセックスしたいとか、欲情もしないよねっ? あぁ、それならよかった! 始めからそう言いなよ!」

「っ……」


 ユリスが言葉を吐くたびに、床を踏む足が激化する。

 床が壊れないかとかを心配する余裕もなく、俺は目を見開いて、呆然と思考を巡らせた。

 恋人に? 恋をする?
 俺がアゼルを恋い慕うなんて、そんなこと考えても見なかった。

 ゴクリと唾を飲む。ユリスの声が遠く薄らぎ、脳裏についさっき別れたばかりの男の姿が現れた。

 確かに俺は──アゼルを愛している。
 それは事実だ。

 大切に思っているし、感謝もしている。アゼルの日々が健やかに、幸福であるように、そうあれと願う。

 その気持ちは紛れもない愛だろう。親愛の、親しい誰しもに抱く感情。

 間違いない。こうまで役に立ちたいだとか、会いたいだとか想うのは、親しみの愛を感じているから。


「はぁ、もう人間なんかに無駄に構っちゃった。家畜なんか飽きたら捨てられるし、珍しがって飼ってる今だけだよねっ。僕の敵じゃないもんっ」


 そう信じてやまなかった俺に、追い打ちをかけるユリスの言葉がドクッ、と心音を荒立てる。


(俺は飽きたら、捨てられる……のか)


 それはそうだ。
 元々そう思っていたし、捨てるなら殺してくれと思ってもいた。

 ちっとも問題ないのに、どうして俺の胸がキリキリと痛むのか。




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