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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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  ◇ ◇ ◇


「魔王様はいつもの専用のお部屋へどうぞっ! 準備はできていますので、お父さんが帰ったらディナーにしましょうね!」

「あぁ」


 アゼルといつものようにのんびりと話しつつ、美味しくサンドイッチをいただき終わった頃だ。

 どうにか灰から復活したユリスが、今夜泊まる部屋へ案内してくれた。

 基地のすぐ隣にある居住スペースのうち、眺めのいい上のほうに視察に来た時用のアゼルの専用部屋があるらしい。

 そこに俺を入れるわけにはいかないから、俺には別の部屋を用意してくれていたようだ。

 ユリスはなんだかんだきちんとしている。見た目だと俺より幼い気がするのに、しっかりと仕事を熟すので凄いと思う。

 まぁ、アゼルは同じ部屋でも構わなさそうだったが……。

 頷いたら命はないぞ、とでもいいたげな視線を感じたからな。

 見た目か弱いユリスと言えど、現在戦闘力皆無の俺では戦争をするわけにいかない。俺は命の危機に瀕していなければ平和主義なのだ。

 なのでせっかくの申し出は断って、自分の客室に案内してもらうことにした。

 魔王城以外で離れるのが嫌なのか、何度も振り向くアゼルに後ろ髪をグングン引かれつつも、二人で俺の客室があるほうへトコトコと歩き始める。


「…………」

「…………」


 ユリスと二人っきりになるのは初めてだ。

 彼は全身全霊アゼルを追いかけているから、その更に後ろをよちよちと覚束ない俺なんて、あまり目に入っていない。

 一途で一直線で湿気のない少年。
 自信満々なのはそれだけ自分を磨いているのだろう。

 難しい顔でツカツカと歩くユリスとの間に、会話はなかった。

 俺は廊下の窓からの景色を眺める。
 外はもう暗くなっていて、魔王城から眺めるのと同じ明るい月が照らしている。


「?」


 ぼんやりと外を眺めていると、急に前を行くユリスの足がカツン、と止まった。

 俺はわけはわからないが、続いて足を止める。ここは客室ではなく入って来た時に通った玄関ホールだ。

 ユリスはくるりと振り向いて腕を組み、フンッと鼻を鳴らして俺をキツく睨みつけた。


「お前は、魔王様の愛人なの?」

「あい、……いや、違う。そもそも俺は男だぞ」

「は? 男だとかは関係ないよ。一般的なわけじゃないから基本は異性間恋愛だけど、そういう趣味のやつはいるし。じゃなくても当人同士がいいなら魔族はなにも気にしない。そういうので線引きするのは、性根がこまい人間だからじゃない?」


 ピシャリと言い放つユリス。アゼルと一緒だった時より、棘のある言い方だ。
 ん? あまり変わらない気もする。


「まぁ、代わりに魔族は弱いものを差別する。自分に従うものは守ることもあるけど、逆らうものは淘汰するよ。……お前もね」

「ん」


 言葉の端を言い放った時に明確な敵意を感じ、俺はじっとユリスの海色の瞳を見つめた。

 アゼルを慕うユリスの敵か否か、見極めようとする瞳。挑むような強い視線だ。

 これも、魔族のタイマン勝負になるのだろうか。




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