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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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  ◇ ◇ ◇


 その後、アゼルと必要なことを話し終わったワドラーは「まだ仕事がある故、ユリスを案内につけよう」と言い残し、仕事に戻っていった。

 忙しい中アゼルの来訪を聞いて、出迎えるために来てくれたのだ。

 頻繁に会わないようなので積もる話もあるだろうが、無理を言ってはいけない。

 なので引き止めずにワドラーを見送った俺たちは、大人しくユリスの案内で海軍本部基地の中の様子を見て回ることにした──のは、いいんだが……。


「……はっ、……っ……」


 ツウ、と汗が頬を伝う。休みなく動いているので仕方がない。それを手の甲で拭いながら、懸命に足を動かす。

 なぜこんなに必死なのかと言うと、だ。

 仕事スイッチの入ったアゼルが妙に視察を早く終わらせたがっているようで、基地内を見て回る速度が非常に速いのである。

 一応海軍基地には〝廊下は走らない〟という決まりがあるので歩いているが、これは最早競歩だぞ。

 ガチャッ、とユリスが扉を開く。


「ここは食堂です! 軍魔は最低限の食事なら無料で食べられるようになっています。食料もなるべく街から買いつけて近隣の経済を回していますよ!」

「よし、栄養は問題ねぇな。だがメニューが少ない。有料にしてもいいから嗜好品もメニューにいれてやれ。日々の業務にささやかな楽しみは必要だ。そのぶんシェフ、いやそうだな……下働きを雇え。事情があって働けなくなった軍魔がいるだろ? 一般魔族に一から軍規を教えるより楽だ。適性があれば後任の料理人として育ててやればいい」

「了解です!」

「次」


 バタンッ、と閉められる。
 突然開いた扉から現れたのが魔王という、ホラー現象。

 直後つらつらと素っ気ない語気で矢継ぎ早に発される言葉に、扉を開けた先の軍魔たちが石のように固まって唖然としていた。

 そんな光景も、もう何度目だろうか。
 哀れ軍魔たちは、口元にくっついていた米粒を取る暇もない。

 自分が働く軍が所属する国のトップが抜き打ち検査に来て、背筋を伸ばす時間も貰えない彼ら。

 アゼルは一瞬で全体に目を行き渡らせ、そこから見える光景を分析し、芋ずる式に良い点悪い点を見つけ、すぐ改善できそうならその場で処遇をユリスに命じる。

 できなさそうなことなら手元の羊皮紙にメモを取り、改善に差し当たって調べることとトラブルシューティングを一緒に書いて、ユリスに渡す。

 そんなお仕事モードのアゼルにニコニコと難なくついていくユリスは、アゼルのこの特殊な視察に慣れているようだ。

 競歩にも遅れることはなく、言われたことは素早く書き留めている。

 魔導具を研究している魔族らしく魔力操作はすこぶる上手いようで、ペンと紙を空中で操り、バインダーなしでも問題なく綺麗に書けていた。

 二人とも、淀みなく自分の仕事を各個人でこなしている。

 もしも人手が足りなければ手伝おうとしていたのに、俺の助けなんてこれっぽっちも必要ないだろう。


「はっ、は……っ、ん、ぐ……」


 現状は助けるどころか、ついていくのに必死な俺である。挟める口なんて持ち合わせていない。

 んん……今のところ、俺がいる意味は全くないぞ。

 アゼルはどうしてそんなに急いでいるのかわからないが、俺には見向きもしない。前だけを見ている。仕事だから当然だが。




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