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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む「それよりユリス、ワドラーはどうした?」
「はい! 父さんはもうそろそろ来ると思います! 見張りから上空を黒いものが駆けてるって報告がありまして。魔王様しかないって! 僕は真っ先に走ってきたんですよっ」
「そうか」
「えへへ……!」
アゼルに声をかけられたユリスくんは俺を射殺しそうな眼光をあっさり引っ込め、コロッと表情を変えてかわいらしく頬を赤らめた。にへにへと笑っている。
表情豊かだな。
子どもは見ていて微笑ましい。
和やかムードで癒された俺は追い打ちの絶叫で悪化した頭痛が収まったので、ツンツンとアゼルをつつき降ろしてもらった。
ユリスくんは当然とでも言いたげに頷き、満足そうだ。アゼルは非常に名残惜しそうだ。なんでだ。
膨れっ面で渋々としながらそーっと降ろしてくれるアゼル。
そんなに惜しむものか?
俺は食に頓着しないので一見細身だが、戦闘職なのでしっかり筋肉があるし、人間の平均より背も高い。
普通に重いと思うけどな……。
アゼルは抱っこが好きなのかもしれない。……はっ! ひらめいた。
「アゼル、アゼル。抱っこが好きなら、ユリスくんを抱いたらどうだ? 俺より抱きやすそうだぞ」
「あうっ、み、耳打ちはイイけど俺のガッカリムードはそうじゃねぇ……! 全然そうじゃねぇぜ鈍感野郎が……!」
そっとアゼルの耳元に唇を寄せてコソコソとひらめきを囁くと、アゼルは耳まで真っ赤になって怒ってしまった。
ダメか? アゼルの欲求と同時に子どもの希望を叶えてあげようとしてみたんだが。
首を傾げると、アゼルは「そうでもねぇぜこのボケボケ勇者めっ!」とプルプルと首を横に振り、不満げに唸る。
「それじゃあどういうことなんだ?」
「い、いや別に、なんでもねぇ。とりあえずなにかもう少しこのまま語れ」
「は? んん……今日はいい天気だな。お出かけ日和だ。晴れの日は心が和やかになる」
「クックック……」
「?」
「あぁぁぁ~~っ!? この無礼者っ! 魔王様を呪文で懐柔するなんて信じらんないっ!」
「?? ええと……俺が悪かった」
抱っこを解除したはずが逆に至近距離でこそこそ話す俺たち(というか主に俺)に、ユリスくんはガルルルッ! と唸り、ピコピコと耳を動かして睨みながら叫んだ。
う、悪気はない。本当だ。
ただ普段吸血時に触れ合うアゼルとは、つい距離感が近くなってしまうだけなんだ。
内心で言い訳をし、謝りながら近づけていた顔を離す。子ども心はよくわからない。
「ヒーリングボイスが……ッ」
すると今度はアゼルが耳を押さえてもごもごとなにか言い、残念そうにしょげた。
眉間にシワを寄せる時は我慢しているのだ。それはわかるのにアゼル心もよくわからない。
「なら少しだけそばに」
「喧嘩なら買うよっ!?」
「ならやはり距離をとって」
「俺から離れるんじゃねぇ!」
離れるとキューンと鳴くアゼルと、近づくとキャンッと吠えるユリスくん。
二匹のイヌ科に挟まれた俺は、ただどうしていいかわからずに微妙な表情で黙るしかない、ただのヒト科であった。
む……どこからか「ハムスターはキヌゲネズミ科では?」という謎の声が聞こえた気がするが、気の所為だろう。
ハムちゃん勇者なんて、ヘケッなのだよ。
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