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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む──それから三日後。
まだ日も昇りきらない早朝になんだか部屋の外に気配を感じて、俺は目を覚ましてしまった。元々早起きなので眠りが浅くなっていたのだろう。
コシコシと目元を擦りながら誰かいるのだろうかと扉へ向かい、なるべく静かにガチャリと開く。
「…………」
「ん……? はやいな……おはようアゼル」
「くっ……! お、おはようだ」
そこにいたのは、アゼルだった。
すっかりめかしこんでいるアゼルはドキドキと緊張した様子で体育座りをしたまま、絞り出したような声で挨拶を返してくれる。
「うああバレちまったぞ……!」と唸ってもいる。なんだか悔しそうだ。理由はよくわからない。
予定よりずいぶん早いが……迎えに来てくれたんだな。それは嬉しい。なら、せっかくだから早めに行こう。
まだ少し残る眠気をパチンと頬を叩いて飛ばし、俺はアゼルに手を差し出した。
ずっと座っていたらお尻が冷えてしまう。部屋に入って待っていてほしい。
「おい、この手はなんだよ」
「ん? 立ち上がるための補助に掴んでくれ。引っ張る。そして今から着替えて準備をするので少しだけ中で待っていてほしい。おやつがあるぞ」
「ぐぁッ……! 安らかな睡眠を妨げてしまったこの俺に対して手厚い歓迎をするんじゃねぇ……! ホカホカするだろうがッ!」
「あったかいのはいいことだ」
朝早く待っていてくれた人に対する至極当たり前のことしか言っていないのに、アゼルは真っ赤になってガウッ! と吠える。
ホットな魔王だと困るのだろうか?
俺の中指と人差し指の先を両手でギュッと握り立ち上がった彼を見て、小首を傾げる俺であった。
アゼルを中に引き込んだ俺は、意気揚々と身支度を整えた。
視察に行くのだが、思っていたより浮かれているらしい。
気持ちいつもより軽やかに準備が進んでいくな。俺は単純な男である。
顔を洗って歯を磨きあまり伸びていないヒゲを剃って、一張羅に着替える。日課のストレッチは省く。
その場でバサッ! と夜着を脱ぐと俺の身支度をじっと見ていたアゼルが眩しそうに両手で目を塞いで、固まってしまった。
朝日が昇って部屋が明るくなっていたので、眩しかったのだろう。
仕草がいちいちコミカルでかわいらしい魔王様である。
俺がふふりと笑うと、彼は早く用意をしろと言ってグルル、と唸った。
前は行きたくなさそうなことを言っていたが、本当は早く視察に行きたかったのか?
俺の面倒を見なければいけないから城から出たがらないだけで、アゼルはお出かけ好きなのかもしれない。
「アゼル、待ったか?」
「全然待ってない」
急いで用意を終わらせると、アゼルは涼しい表情でサッと立ち上がった。
どうやら落ち着いたみたいだ。しかし待ち時間にどうぞと出したお菓子は、なぜか全てなくなっていた。
なるほど……お菓子のほうが本命だったか。半日以上空けたくないと言っていたのは、お菓子が食べられないからだな?
名推理である。
真実はいつもひとつだ。
「永久凍結からの保存。フッ、この俺にかかれば朝飯前だぜ……」
「? お菓子だけでは足りなかったのか……お腹がすいたなら、朝ご飯を食べるか?」
「そっそういうんじゃねぇっ大満足だ喜びやがれっ」
大満足らしい。気に入ってもらえて嬉しかった俺は、そっぽを向くアゼルと連れ立ってご機嫌に廊下を歩いた。
あんまり顔に出ていないかもしれないが、ちゃんと喜んでいる。
魔王城に来てから表情筋が柔らかくなったが、元々固めなんだ。
ふふふ……どうにか習得した召喚魔法にしまってあるお菓子も、暇があればアゼルにあげるとしよう。
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