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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟むライゼンさんが用意した皿にアゼルのぶん一つと、ライゼンさんのぶん一つを開けて、三人で和やかにお茶会をする。
勇者と魔王と魔界宰相の三人組。
勇者のお菓子屋さんの終着点はいつもここだ。俺はこの時間も、とても好きだった。
「それじゃあアゼルは南の海岸線にある街へ、海軍本部を視察に行かなければならないのか?」
「そうなのです。今は魔王城の海軍基地の部隊がみんな海岸線を守護しているので、部隊運営に異常がないか、定期的に視察する時期なのです」
「それなのに魔王様は……」とライゼンさんは頭を抱え、やけ食い気味にクッキーをもぐもぐと咀嚼する。
なるほど。その仕事を嫌がって駄々を捏ねているんだな。
俺がどうしてなんだ? という意味をこめてアゼルをじーっと見つめると、責められているとでも思ったのか、アゼルは目に見えて狼狽した。
「い、いいんだよ。海軍が城にいても動かしづらいからって、魔王が俺に変わってから海岸線に配置してるだけだぜ? 代わりに陸軍の駐屯と空軍の巡視は、あのあたりを外して負担を軽減してる。問題があったからじゃねぇ。ちっと行かなくたってあそこは平和だ」
「そうなのか……でも追い出されたみたいで、海軍は不安じゃないか? 労いに行くことはそういうことを和らげる。それに見張ってないと謀反を考えることもあるかもしれないぞ」
どこかが攻めてくるから守護しているわけではないとわかった。
けれどそのあたりが心配で、そろそろと聞いてみる。
視察には意味があるからな。
頭から遠い尻尾は、思うとおりに動かない時もあるだろう。切れてしまったら尻尾は頭の言うことなんて聞かないはずだ。
慰労の話を聞いたアゼルはうぐぐ、と苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
しかし謀反の話には、微妙な顔をした。
「海軍が束になって襲ってきても、俺一人で返り討ちにできるからな……謀反はねぇよ。魔族だからな」
……そうか、魔族だもんな。
弱肉強食、負けを認めたなら強者に絶対服従。それが魔族。掟ではなく、生まれ持っての性質だ。
その王座に君臨するのが最強の強者である魔界では、人間国のような謀反はありえないのだと言われ、納得してしまった。
魔族だから。
とんだ便利ワードである。
「それに俺は、城から離れるのはお断りだぜ。お出かけのお誘いなんかハードルが高すぎる! もう少し仲良くなってからだろ……!」
「お出かけ? 視察じゃないのか」
「そうとも言う。でも俺のメンタルの浮かれ具合的にはお出かけと言いやがれ。そっちのほうが親密そうだ」
フスン、と鼻を鳴らして真剣な表情で言うアゼルだが、お出かけのお誘いにそうも心積りがいるものだろうか。
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