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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む「うぐぐ……じゃあ俺はこの残りをティータイムに取っておくぜ……!」
「ううう……俺もとっておく……!」
「オルガ、キリユ……! そうだな、俺も残しておくぜ……!」
信号機トリオはお互いに慰め合いながら、泣く泣く残りのクッキーを召喚魔法の魔法域へとしまっていった。
いつも思うが、召喚魔法は便利だな。
俺も覚えてみたい。
召喚魔法は魔族の魔法なので、人間は使い方がわからないのだ。一人で魔界を目指して旅をしていた時は、見た目より収納できる魔法のポーチを持っていた。
今は剣と一緒に没収されているので、出歩けるようになると少し不便である。
じーっと羨ましく見つめていると、それに気づいた青色竜人、オルガが首を傾げた。
「どうした? やっぱり返してほしいのか? だめだぜ、これはあとで大事に食うんだ」
「いや、構わないしなんなら明日は違うお菓子を売る予定だから、よかったら買ってもらえると嬉しい。召喚魔法が便利でいいなあと思っていたんだ」
「ち、違うのも作れるのか! よし、それを予約するぜ。ついでに召喚魔法を教えてやる」
オルガは嬉しそうに尻尾を揺らしながら、俺の背中をバシバシと叩く。
痛い。強化人間なステータスを持つ俺でなければ背骨にヒビが入ってそうだ。
ちなみに明日はパウンドケーキだぞ、と言うと、パウンドケーキは知らなかったのか首を傾げられた。
甘くてふわふわした焼き菓子だと説明すると、またよだれを垂らしている。やっぱり竜人は甘いものが好きなのか。かわいいな。
オルガに授業の相談をしていると、クッキーを全て食べ終えたガドがのっしりと背中に乗りかかってきた。
「シャルゥ? 召喚魔法なら俺も使えるぜィ、教えてやるよ。いいかァ? 〝召喚魔法使えたらいいなぁ〟って思って指パッチン。それで出る。しまう時は〝召喚魔法の収納に入れておきてぇなぁ〟と思って触れると消える。な? 簡単だろ?」
「勇者、ガド長官は天才タイプだから真面目に話を聞くなよ」
「そうだな」
「なァに言ってんだ? 俺も陸軍長官も海軍長官も新しく魔法覚えたい時はそんな感じだぜェ」
空軍長殿は、典型的な天才肌だった。
このぶんではその両軍長たちもぶっとびモンスターの可能性が高い。
地道にコツコツ努力するタイプの俺ではついていけない先生たちである。
「それよりほれ、代金」
「過剰報酬だっ」
ガドは召喚魔法でクッキーの代金には釣り合わない重さの袋を、俺の手元に前触れなく召喚した。
お金を払う時にズシンという音が鳴ること自体そうないぞ。嫌な予感がする。
おそるおそる覗いたら金貨だった。
それ見たことか!
この世界はファンタジーゲームにいくらかの馴染みがある俺にわかりやすく、銅貨、銀貨、金貨が主流だ。
現代の貨幣に換算すると銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円である。
そして俺の手元にある袋には、二十枚前後の金貨があった。
軽く二十万。クッキーがだぞ……!?
俺は当然必死にガドに返そうとしたが、ヒョイヒョイと避けるガドに軽くいなされ、バスケットの中にぽいっと放り込まれてしまった。
「うう、俺のクッキーは一袋十枚で銅貨五枚だぞ……お前はこの金貨ぶんまでは対価なしで強制お届けするからな、覚悟してくれ。頑張って美味しく作るし、頭を下げて頼んでももう代金を受け取ってあげないぞ」
「ど、銅貨五枚! なんだそれ安いな!? 俺は魔界じゃ珍しいお菓子だから銀貨二枚はすると思ってたのに……! クッキーもう一袋!」
「「俺も!」」
なんと。物珍しいものが高価だと思っていた竜人三人に、思いがけず追加で三袋売り込むことができた。
もちろんガドにはおまけで一袋押しつけたとも。普通の小袋だと一口で空にしていた。
いつの日か二人でアクシオ谷に行った時に、バッファドンの丸焼きをほとんど一人で食べきっていたことを思い出す。
それを踏まえると、ガドの胃袋はブラックホール説が濃厚である。
お腹を壊さなければいいのだが。
ガドの腹具合を心配しつつも嬉しげな彼らに癒された俺は、わちゃわちゃと楽しい空軍をあとにしたのだった。
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