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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む「初め勇者が攻めてきた時の噂では、無表情の鉄仮面なロボ勇者って話だったんだぜ? ずーっと黙々と魔王城の敷地の囲いをよじ登ってきたり、玉座にたどり着くまでに迷子になっても、黙ってずーっとうろうろしてたって」
「誰だそれは」
「お前だよ!」
アリオの言葉に更に首を傾げた俺に、アリオの言葉に同意しているのか、オルガがスパコン! と俺の頭を叩こうとした。
だがその腕をガドにデコピンされて「ァウチッ!」と悲鳴をあげる。
同じデコピンなのに俺のデコピンとは威力が違う。やはり気の毒だ。
ちなみにガドはモグモグと口いっぱいにクッキーを頬張って、それこそハムスターのように頬袋がパンパンだった。
うぅん、これはもうハムスターの座は彼に譲るしかない。仕方ないが譲るしかない!
称号を返還することができた俺は、ハムスター化するガドの頭をよしよしとなでる。
信号機竜人たちは目玉をひん剥いて二度見していた。そうか。自分の上司の頬袋があぁも膨らむとは思わなかったんだな。
「ガドは意外とモチモチしているぞ」
「いやいや。長官に人間が触ってるとんでもない状況にポカンな俺たちだけど、俺わかったぜ」
「俺もわかったぜ」
「もちろん俺もだぜ」
「うん?」
「「「コイツ天然だ!」」」
「いや、俺は天然じゃないが……天然というのは悪いことだと聞いた。直すから、どこらへんがそうなのか教えてほしい」
「モゴモゴ、んぐ。シャル、そういうとこだぜ~」
どういうところだろう。
四人にまとめて指摘され、俺は心持ちしゅんと肩を丸めた。
知っているぞ。人に天然と言う時は、馬鹿だという意味だろう? そういうところはちゃんと直したいのに、詳しいことはよくわからない。申し訳ない。
考え込んでいると、ガドが「まぁしょげんなよ~それがお前のイイトコだぜ」と慰めてくれた。優しいな。
けれどどうして俺の手を掴んで動かし、自分の頭をなでさせているんだ?
慰めなら俺をなでるほうが適切だと思うが、ガドをなでて癒されていろということだろうか。なでるけどな。少し癒される。
「元ロボシャル、やっぱなでるのうめェ~」
「ロボだった覚えはないが……俺としてはちゃんとニコニコしているぞ」
「クク、顔にあんまし出ねぇのよ」
この世界でロボというと、魔導具のことだ。
科学的なものではないがカラクリ的なものなので、概ね現代と同じ意味である。
つまり鉄仮面扱いされたわけだが……俺は楽しければ笑っているはずだし、悲しければこうしてしょげているのに。
確かに魔王城の壁をよじ登っていたのも、迷子になっていたのも、俺だ。
しかし俺は無表情じゃない。割と表情豊かだ。ノーマルな顔が若干眠たげで、真顔寄りなだけである。
「表情か」
そういえば──そうだ。
魔王城に来てからは、笑うことが多くなったかもしれない、かな。
「俺たち魔族は弱い人間たちを、人間目線で言うとそのへんの野良猫感覚で見てる。けど猫でもさ? やせっぽちが一人でとぼとぼ歩いてるのよりは、ニャアニャア愉快な猫のほうがいいと思うぜ」
そう言ったアリオは照れ臭そうに唇を尖らせ、ふいっと顔をそらした。その口元にはクッキーの食べカスが付着している。
どうやらこの三人の竜人たちは人間を嫌悪している魔族ではないようで、アリオは友好的な反応を返してくれたようだ。
これには曰く鉄仮面であった俺も、ニマニマが止まらない。
心の中では万歳三唱。
ハムスターの座をガドにプレゼントしたからか、猫にランクアップしたからな。勇者さんイメージアップ作戦は大成功だ。
「ありがとうな」
「んぐ、おうよ。竜は気のいいやつらばかりだ、空軍はお菓子をくれるお前を歓迎するぜ! ですよね、ガド長官!」
「モグモグ、ん、当たり前だ。俺のお気に入りだからなァ。だけどアリオ、テメェお菓子は金を払わねーと貰えねぇんだぜ?」
「「「な、なんだってーッ!?」」」
礼を言ってアリオの頬の食べカスを取ってやると、アリオは意気揚々と歓迎してくれる。けれどすぐにガドの言葉を聞き、ガーン! とショックを受けてしまった。
ユニゾンして声を上げた三人衆だったので、話を聞いていた二人も今後もお菓子を貰おうとしていたようだ。
そう思ってもらえるとすごく嬉しいが、俺も仕事だからな……ちょっと申し訳なくなる。
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