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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
06
しおりを挟む◇ ◇ ◇
「マルオ、仕事はどうだ?」
「アッシャル! シャル! マッテタ! マルオ、シゴトオワラセテマッテタ!」
魔王城の周囲にある天然の洞窟は、カプバットたちの住まいになっている。
まずそこに向かった俺は、洞窟の入り口を塞ぐように建てられた扉をコンコンと叩いて中を覗いた。
それだけで、中の個室に分かれた部屋の一つから馴染みのまんまると愛らしい俺の世話係カプバット──マルオが、パタパタと飛んでくる。
それを柔らかく抱きとめなでてやると、マルオはスリスリと胸元に擦り寄るので非常にかわいらしい。
動物と爬虫類が好きな俺だが、マルオは別だ。彼のおかげでアゼルとの親愛度も、心持ち増した気がするしな。マルオはイイコだ。
「シャァル? シャルノオカシ!」
「シャル、ハイタツノジカン!」
「イソゲイソゲ!」
「オカシノジカンダ!」
マルオをなでていると、それに引き続いて他の扉からもヒョコヒョコとカプバットが顔を出した。
そしてマルオと同じく、パタパタと浮かれながら飛び出してくる。かわいいが増えた。
こんなにたくさんいるカプバットたちだが、ここにいるのは主にアゼルの身の回りの世話をするマルオグループだけだ。
彼らは何匹かのグループに別れ、城に点在する洞窟でまとめて暮らしているのである。
お菓子屋さんを始めた時にマルオにマフィンをあげたのだが、それを見ていたこの洞窟の仲間たちが興味を示してくれた。
今やマルオと同じく、マルオグループはみんな先約のお客様だったりする。
「キョウ、マルオタチ、スズナリソウ、アツメテキタ!」
「コレ、オチャニスル、ヨクネムレル!」
「それはいいな。よし、それと交換でみんなにクッキーを一袋ずつだ。今日はな、この間貰ったクルミのクッキーだぞ」
「クルミー! クルミ!」
「ヤッタ! マルオ、ウレシイ! シャル、アリガトウ!」
「アリガトウ! アリガトウ!」
「アリガトウ! アリガトウ!」
マルオの仲間たちが持ってきた薄黄色の風鈴のような花の花束を貰い、代わりにクッキーを一袋渡す。
抱いたままのマルオに一つ。
それから行儀よく並んで待っている仲間たちに順に一つずつ。
マルオたちがお金の代わりに集めてくれる素材とクッキーは、物々交換なのだ。
それほど知能の高くない魔族であるカプバットはお金でやり取りをしないため、顧客に合わせた対価というわけである。
それに俺はお金が欲しいのではなく仕事をして役に立ちたいだけなので、これで問題ないのだ。
全てのカプバットに渡した時点で、クッキーの紙袋の残数は半分ほどになった。
勇者のお菓子屋さん。お得意様は魔王の世話係たち。
俺は礼を言いながらバイバイと手を振り、入って来た洞窟の扉に手をかける。
「そうだ。明日はパウンドケーキを焼くんだが、予約するか?」
『スルー!』
買ったクッキーをモグモグと頬張りながら活きのいい返事があがり、カプバットみんなの予約が取れた。
うん、やはり珍しいおやつの力はすごいな。俺はやはり目の付け所がよかったぞ、と嬉しい気持ちで歩き出した。
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