61 / 901
二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
04
しおりを挟む閑話休題。
そんな計画はさておき、話を戻そう。
それで、俺はお菓子を作る仕事は諦めて、他に働けそうなところを探すことにした。
が、それを言うとアゼルが吠え、鬼気迫る勢いで部屋から飛び出して行ったのだ。
『仕事しなくていいって言ってんのにこの労働中毒めッ! 職場探しはだめだ! お前のための厨房を作るから、それまで黙って飼われてろ!』
とんだ捨て台詞である。
予想外の言葉にポカンとして、止める暇もなかったあの日。
というわけで──現在俺が作業をしているのは、二週間前に完成したまさかの俺専用厨房なのだ。
……言いたいことはあったとも。
やめろと言ったとも。
元手のかからない仕事を探すとも言ったとも。
もしなければ従魔の下働きをするとも、何度も言ったとも。
だが言えば言うほどガウガウと吠え始め、『貧弱人間に魔族の同僚は務まらない、死にたいのか?』的なことを散々言い聞かせられてしまうのだ。
気がつけばクドラキオン魔族であるアゼルの眷属、カプバットや黒人狼たちを指揮して、着工三日で魔王城の中庭に専用厨房が建てられたんだぞ?
まぁ、その……魔王を崇拝する眷属たちが本気を出したからな……。
アゼルが闇魔法を駆使して中庭に更地を作るまで、五秒とかからなかったしな……。
断ったらおそらく、アゼルはまた泣くだろう。しかも重大なことのように捉えて一人でしくしくするだろう。
俺に関することはなぜか、アゼルは常に全力の本気で受け止める。
その上ドヤ顔で「ふふん、どうだ? 嬉しいか?」なんて言われたら──貰うしかないじゃないか……っ!
くっ、とままならない心情で、小さめの紙袋に小分けしたクッキーを量産していく。
専用厨房。ありがたい。作業が捗る。
だがいったい元を取るには何年使い倒さねばならないのか。
俺は家畜であり捕虜ではないのか。
何事もスケールが魔王級のアゼルに、俺は嬉しいながらも限度とは、と震えていたからな。
せめてものお礼に、初めて作ったお菓子はアゼルとその眷属たちに振る舞った。
するとなんと、大好評だったのだ。
ふふふ、これはとても嬉しかったぞ。思い出しても照れてしまう。
みんなでティータイムのあとは、なぜか吸血系の魔物や魔族に好かれるらしい俺が、黒人狼たちを全員なでることになった。
ちょっとよくわからないが、もふもふ成分を補給できるので願ったり叶ったりである。ニコニコとしながら存分になでた。
あぁ……そういえば。
いつかの黒い犬がどこからともなく現れて、なでなで待ちの列に並んでいたな。
やはりアゼルの眷属だったのか。
再会が嬉しくて殊更にもふもふしてやったのも、懐かしい思い出だ。
「アイツの毛質はなんかこう、モフっとしていて艶やかだったな……なでても抜け毛がないのが不思議だったが、魔族だからだろうな……」
最後のクッキーを小分けに包みながら、この仕事を始めるまでを思い出して、笑みを漏らす。なんやかんやとあったが、開店準備は概ね楽しかった。
しかしアゼルは困ったさんである。
小型とはいえ厨房というものは、勢いで作っていいものじゃないと思うが。
俺のせいでアゼルのポケットマネーが尽きたら、どうにかして養わねば……。
ひっそりと決心を固める。
よし、今日もどうにか売り込むぞ。
小分けにしたクッキーは、全部で数十個になった。予約してくれている先約ぶんも込みだ。
前もって予約してもらえると、俺が昼過ぎからおやつ時までにお届けするシステムである。こういうお届けオプションもつけなくては、売上と認知度が上がらない。
思考回路が根っから企業戦士だな。
一抱えほどのバスケットに全て詰め込んで、俺はいざ、配達と営業に向けて厨房から歩き出した。
駆け出しの頃体験した懐かしの営業。
時たま、リーマン時代を思い出す。
71
お気に入りに追加
2,669
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる