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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
53※微
しおりを挟む「あ……あぁ……っん……」
「っ」
ヌル、ヌル、とはしたない淫液が滑り、気づいたアゼルがビクッ、と身を固くする。
何度か腰を揺らめかせると手と陰茎が粘液を潤滑油に擦れ、敏感な粘膜が喘ぐ。
再開した直接的な刺激による快感が、すぐに下腹部へジワジワともたらされ始めた。気持ちいい。けど、もっと欲しい。
(早く、イキたい……)
理性の飛んだ快楽中毒の男と化した俺は、至ってシンプルな欲求に突き動かされていた。
「う、ぁ、しゃ、シャル……!?」
「責任、とってないだ、ろう……ん、あ、っ……はっ」
催淫毒と愛撫のコンボでトんだ頭は、もちろん、羞恥心なんてものを感知しないのだ。
アゼルの手の上から自分の手を重ね、ヌルヌルと擦り合わせるだけだった勃起を強く掴む。そして更に激しく腰をくねらせ、追い求める絶頂。
「ぁぜる……んっ、んん……もう、イキたい……はっ……ぅ、っ」
「は、ぇ……っ! っ?」
「あ、あ、クる、駄目だ、んっ」
好き勝手に責めていたのが、一転して好き勝手に使われる展開に、今度はアゼルが混乱する羽目になる。
「あぁ、ぁ……っ」
そして上り詰めるにつれ激しくなる他人の手を使った自慰に、ビクンッ、と身を痙攣させ、俺はあっけなく高まった精を吐き出した。
「っく、なん、つー……っ」
「はっ……は、ぁ……」
ようやく迎えた射精によりくたりと脱力する俺のそばで、唖然と呟くアゼルの声。
『シャル、もっと俺に見せろ』
未だトロトロと白濁とした精液を漏らす自分の陰茎を見ながら、俺は先ほど言われた言葉を思い出す。
ふっ、と息を漏らして上目遣いにアゼルを見ながら、得意な笑みを浮かべてみせた。
「はっ……ちゃんと、俺の、見られたら、困るところ……見せた、だろう……?」
こんな情けないところを見せてほしいなんて、ちょっと変な趣味だが……これでいいのだろうか。
けれどその返答を聞くより先に、俺の意識は加速度的に薄れていく。
呼吸に合わせて上下する体がヒクヒクと痙攣して、一気に今日一日分の疲労が押し寄せてきた。張り詰めたものが消え、脳内麻薬が切れたのだろう。
──あぁ、疲れた……今日は、動き回って、心も余裕がなかったしな……。
──まあでも、気持ち、よかったし……これはこれで、いいか……すごく……眠い……。
心身共に満足した俺は、酷使した体が休息を求めるまま、抗うことなく落ちていく。
呆然と俺を抱きとめるアゼルに後を任せ、微睡みの中へ意識を飛ばしたのだった。
「……はっ! こ、この野郎眠ってやがる! ……いやそれより、俺、なんで……勃ってるんだ……」
残された魔王は、頬を真っ赤に染めてドギマギと困惑しながら呟く。
毒に犯されてもいないのに、その気になっている自分の愚息。
魔王はただ『吸血はしたいが自分の毒で彼が困るのなら、その責任を取ればもっと長く触れ合えるのでは?』と打算と罪悪感で提案した。
そこにやましい気持ちはなかったし、あわよくばなんて心もなかったはず。
それがどうして自分は彼を〝かわいい〟と思い〝口付けたらどんな顔をするのだろうか〟なんて、考えてしまったのか。
いくら人間ほど種族や性別を気にしない魔族とはいえ、憧憬や恩義に満ちていた勇者の痴態だ。
エロいとは無縁のはず。
……抱きたいとは、もっと無縁のはず。
吸血のために伸ばしていた牙を元通りにしながら、ペロリと唇を舐める。
「……甘ぇ……」
尊敬と憧憬の好意が急速に色を変え、形を変える──名前のわからない感情。
魔王は自分の変化にとまどいながらも、腕の中で満足気に眠る大切な人を、しっかりと抱き締めた。
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