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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟む洞窟から出ると、奇妙な光景が待ち受けていた。
小型トラックほど大きく体中に岩の鎧のような鱗を纏ったバッファローもどき──バッファドンを、腕だけほどよく竜化させたガドが、バッサバッサと解体している。
少し離れたところに吊るされた毛皮があった。
そのそばに血だまりと内臓がひと塊に置いてあり、あそこで血抜きと処理をしたのだろう。驚くべき手際だ。
あれに魔物が集って来たりしないのだろうか……と思ったが、ガドと探索していてあたりの魔物たちが近くに来たことがなかったことを思い出す。
なるほど、空飛ぶ災害なわけだ。
「おー、レアステーキな気分だったからプランAにしたぜ。クク、シャルには美味いロースをやる」
洞窟から出てきた俺を見て、ポケットから取り出したハンカチで手元を拭きながら、爽やかな笑顔でそう言われた。
なんだかツッコミどころが多くてなにも言えない。
グサグサと枝に肉を突き刺して俺が用意しておいた薪に並べて焼いていくガド。鼻歌混じりだ。
「ヒレがいい」
ツッコミを諦めて、取り敢えず肉の部位をリクエストしておいた。本日初めての食事にロースはちょっと重い。
魔族のポテンシャルを気にしたら負けか、とあまり気にしないことにしてガドの隣に腰を下ろす。
胡椒の実を割って粒をパラパラ。
もう俺の仕事はパラパラ係くらいだ。
そうしていると、焼き始めたばかりの肉の塊たちをまだかまだかと見つめているガドが、胡椒の粒を振りかける俺の手を見て、ギョッとした。
「アァッ、目を離したらすぐこんな傷作りやがるな、なんだこれ」
「うぐ、俺は幼児じゃないぞ」
まったくあんたって子は! とでも言いたげにガシッ! と腕を掴まれ、じろりと睨まれる。
「噛み痕か。血が止まってねぇなァ……バッファドンの血で匂いに気づかなかったわ……」
「ヤマアラシにカプカプとやられたんだ。痛くなかったぞ」
「ヤマアラシィ? あっツノアラシか。あぁー」
ガドは俺の話を聞いて思い当たったのか、呆れ返ってしまった。
なんというか、申し訳ない。
ゴソゴソとポケットを漁ってハンカチを取り出すが、そのハンカチはバッファドンの血で真っ赤に染まっている。
黙ってゴソゴソとしまうガド。賢明な判断だ。
むむむ、としばらく眉間にシワを刻んだが、申し訳なさそうにしょげる俺を見て、ガドは傷ついた俺の手に唇を寄せてきた。
そしてそのまま、ちゅう、と吸いつく。
「は?」
「ンー……血だけってのは好みじゃないけど、コレは美味いなァ……んん」
「……擽ったいんだが……なにしてるんだ?」
感想を言ってから更にペロリと舐め、再度吸いつく。俺は特に抵抗をする気は湧かなかったが、頭の上に疑問符が飛び交っていた。
ガドはペロペロと傷口を舐め、吸い、味わう。ぬるついた舌が労るように手の皮膚を這い回る。
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