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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟む「モキュ」
「もきゅ?」
そこには、モキュモキュと鳴いて物珍しそうに俺をふこふこ鼻を鳴らしつつ嗅いでくる、ヤマアラシがいた。
ここと違う水たまりでさっきまで水を飲んでいたヤマアラシたちだ。
数匹のヤマアラシたちは向きなおる俺の前でみんなモキュモキュと鳴き、つぶらな瞳でこちらを見ている。
……かわいいぞ。
凶器である針に阻まれ触れることはできないが、十分にかわいい。
なで繰り回したいがそうもいかないので、ふこふこと鼻を鳴らすヤマアラシたちにそおっと片手を差し出し、ちょっちょっと構ってみた。
「よしよし、どうした? 人間が珍しいのか?」
「モキュ、キュゥン」
「ん、顎の下は柔らかい」
魔力を封じられて魔物的にも弱々とした存在に感じられるのか、警戒もせずヤマアラシは差し出した手に顔をすりつけてくる。
背中の針は脅威的で、角も鋭く危険なヤマアラシ。
けれどネズミのような小さな顔は愛らしく、硬めの毛だが動物らしく柔らかかった。ぷにぷにだ。
「ん、かわいいな」
「キュゥ、モキュ」
「うお」
指先に、ガブリと衝撃。
こしょこしょとなでてやっていると、突然ヤマアラシがあぐりと俺の人差し指の付け根あたりの肉に噛みついた。
小さな顎でカプカプと噛みつかれてもあまり痛くはないが、驚いて固まってしまう。
「う、……?」
よく見るとヤマアラシは、噛みついた俺の指から流れる血をチュウチュウと吸っていた。……このヤマアラシ、吸血する系だったのか!
ガガン、と大ショックを受けた。
そんな話は聞いたことがない。
誰がヤマアラシを見て吸血タイプだと思うのだろうか。
あわあわと慌ててヤマアラシから手を引こうとすると、モキュモキュと鳴いていたまた違うヤマアラシが、手首のあたりにガブリと噛みつく。
「んぐ、こ、こら……あ痛……やめろ……いてて……」
カプ、と噛まれて手を引き離すとまたその先にいた違うヤマアラシがカプ。カプカプの連鎖。
牙は小さく俺の皮膚が少し傷つくぐらいだが、たくさん噛まれてたくさん噛み傷がついていく。
小さな傷とはいえ、たくさんつけば伝う血は増えるので、かなり大惨事だ。
「も、もういけない、俺は出る……」
「キュゥ……キュゥ……」
「モキュ、キュッキュ……」
「あぅ……卑怯だぞ……」
バッ! と立ち上がって逃げようとすると、ヤマアラシたちがこぞって「そんなご無体な! もう少し!」とでも言いたげな悲しそうな声を出した。
その悲壮感溢れる様子に、俺は困りきってまた腰を下ろす。かわいいが強い。
取り敢えずあと一カプずつ舐めさせてあげて、俺は傷を洗って後ろ髪引かれまくりながら洞窟を離れたのだ。
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