上 下
40 / 901
一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

37

しおりを挟む


「モキュ」
「もきゅ?」


 そこには、モキュモキュと鳴いて物珍しそうに俺をふこふこ鼻を鳴らしつつ嗅いでくる、ヤマアラシがいた。

 ここと違う水たまりでさっきまで水を飲んでいたヤマアラシたちだ。

 数匹のヤマアラシたちは向きなおる俺の前でみんなモキュモキュと鳴き、つぶらな瞳でこちらを見ている。

 ……かわいいぞ。
 凶器である針に阻まれ触れることはできないが、十分にかわいい。

 なで繰り回したいがそうもいかないので、ふこふこと鼻を鳴らすヤマアラシたちにそおっと片手を差し出し、ちょっちょっと構ってみた。


「よしよし、どうした? 人間が珍しいのか?」

「モキュ、キュゥン」

「ん、顎の下は柔らかい」


 魔力を封じられて魔物的にも弱々とした存在に感じられるのか、警戒もせずヤマアラシは差し出した手に顔をすりつけてくる。

 背中の針は脅威的で、角も鋭く危険なヤマアラシ。

 けれどネズミのような小さな顔は愛らしく、硬めの毛だが動物らしく柔らかかった。ぷにぷにだ。


「ん、かわいいな」

「キュゥ、モキュ」

「うお」


 指先に、ガブリと衝撃。
 こしょこしょとなでてやっていると、突然ヤマアラシがあぐりと俺の人差し指の付け根あたりの肉に噛みついた。

 小さな顎でカプカプと噛みつかれてもあまり痛くはないが、驚いて固まってしまう。


「う、……?」


 よく見るとヤマアラシは、噛みついた俺の指から流れる血をチュウチュウと吸っていた。……このヤマアラシ、吸血する系だったのか!

 ガガン、と大ショックを受けた。

 そんな話は聞いたことがない。
 誰がヤマアラシを見て吸血タイプだと思うのだろうか。

 あわあわと慌ててヤマアラシから手を引こうとすると、モキュモキュと鳴いていたまた違うヤマアラシが、手首のあたりにガブリと噛みつく。


「んぐ、こ、こら……あ痛……やめろ……いてて……」


 カプ、と噛まれて手を引き離すとまたその先にいた違うヤマアラシがカプ。カプカプの連鎖。

 牙は小さく俺の皮膚が少し傷つくぐらいだが、たくさん噛まれてたくさん噛み傷がついていく。

 小さな傷とはいえ、たくさんつけば伝う血は増えるので、かなり大惨事だ。


「も、もういけない、俺は出る……」

「キュゥ……キュゥ……」
「モキュ、キュッキュ……」

「あぅ……卑怯だぞ……」


 バッ! と立ち上がって逃げようとすると、ヤマアラシたちがこぞって「そんなご無体な! もう少し!」とでも言いたげな悲しそうな声を出した。

 その悲壮感溢れる様子に、俺は困りきってまた腰を下ろす。かわいいが強い。

 取り敢えずあと一カプずつ舐めさせてあげて、俺は傷を洗って後ろ髪引かれまくりながら洞窟を離れたのだ。




しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...